3時限目【クロエルの憂鬱】

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3時限目【クロエルの憂鬱】

   はぁ……今日も散々噛まれたなぁ……  放課後、俺は保健室に寄り寮へと向かっていた。すると、木の陰に隠れて何やら監視するような仕草をする天使が見えた。うちのクラスの、  たしか、クロエル、か。  何をしているのだろうか? 気になりクロエルに声をかけてみる。 「こんな所で何してるんだ? 暗くなる前に帰らないと危ないぞ」  とはいえ、天界に犯罪者なんぞいないだろうが、 「びくぅっ!」  クロエルは相当驚いたのか身体をビクつかせゆっくりこちらに振り返った。自分でびくぅっとか言っちゃうあたりが何とも言えないが、そこは触れないでおこう。 「べ、別に……先生には関係ない事ですが?」  クロエルはサラッと言って走り去ってしまった。  クロエル。  基本スペックはクールで大人しい性格だ。まだあまりクラスに馴染めていない感じが少し気になるのだが……中々心を開いてくれない。  ダークグレーのストレートヘアに綺麗に切り揃えられた前髪、そしてグレーの瞳。  あまりカラーリングが天使よりではないが天使にも色々個性があるのだろう。 「あ〜フォルネウスが木の陰に隠れているの〜、もしかして盗撮なの〜?」  すると、ガブリエル2世がフワフワと近付いて来やがった。面倒なやつに見つかってしまった。 「えーっ先生盗撮っすか!? どんなのが撮れたか見せて下さいっす!」  おまけにマールも付いてきた。てか盗撮してねーし、してたとしても見せる奴はいねーだろ!  キャッキャッ  マールとガブリエル2世が群がる。暑苦しいし、何か眩しいからやめてけれ!! 「ぬあぁっ! もういいから早く帰れ!」 「ああっ!! もしかして、せ、拙者を盗撮してたっすか!? だから見せられないんすね! そんな事しなくても撮りたいならいくらでも撮らせてあげるっすよ!」  マールはそう言ってクルリと回ってみせた。  いや、それは色々とマズイだろ。 「むぅっ! フォルネウス〜、ガブのマールを狙っているの〜! 取られる前にやっつけるの!」  や、やめっ!?  ガブリ! ぴゅーっ  酷い目に遭った。保健室に行ったばかりだってのに。また噴水が……  ——そして翌日。  今日も教室は賑やか、いや、祭りでもやっているかのように騒がしい。そして、  例によって例の如く俺はマールとガブリエル2世につきまとわれている。  ……?  今、視線を感じたような。  気のせい……  ……じゃねぇぇぇっ!?  めちゃくちゃ睨まれてるんですけど!!  クロエルの刺さるような視線が俺に向けられている。しかし、俺に気付いたクロエルはプイッと横を向いてしまった。  放課後、保健室経由——ガブリエル2世に噛まれて血が止まらないから、保健室に寄って帰路についていると、再び木の陰に潜むダークグレーの天使が目に映る。  そっと近付くとクロエルは慌てて持っていた何かを隠そうとする。しかし、慌てていたせいもありソレは地面に散らばってしまった。  写真?  クロエルは散らかった写真をかき集める。  俺はソレを一つ拾ってみた。  写真に写っているのは、ガブリエル2世? それに噛み付かれる俺。マールも写っている。  見た感じ、メインがガブリエルのような気もしないでもないが。 「か、かか、返して欲しいのですがっ!」  クロエルは慌てて俺の手から写真を取り返そうとする。 「ちょ、わかったわかったから、ほら。でも、何でガブリエルの写真ばかり撮ってるんだ? しかもデジカメ時代にポラロイドカメラって」 「せ、先生には関係ない事だと思いますが?」  クロエルは追い詰められた獣のような哀れな表情で俺を見上げる。大きなジト目は潤み、今にも溢れ落ちそうな涙を必死に堪え、華奢な身体を小さく震わせる。  あまり問いただすのは可哀想だと思い、俺はクロエルの視線に合わせ屈み出来る限り優しい口調で言葉を並べてみた。 「ガブリエルと、友達になりたいのか? クロエル?」  何となくそんな気がして口にした。  クロエルは不意をつかれたように目を丸くする。  だが、さっきとは違ってその眼差しに敵意はなくなったように感じる。  クロエルは頬を赤らめながら頷いたのだ。  なんだ……可愛いとこあるじゃねーか。 「ガ、ガブリエルちゃん……の……」  え、プルプルし始めたぞ? めちゃくちゃプルプルし始めたよ? 「ガブリエルちゃんのっ! ほっ、ほっ!」  プルプルプルプル!! 「ほっ?」 「ガブリエルちゃんのほっぺをプニプニしたいんですぅっ! そ、それだけですが何かぁっ!?」  ……お、おう、そうかそうか。確かに、ガブリエル2世の頬っぺたは極上だろうな。  クロエルは顔を真っ赤にして肩で息をする。 「いやいや、そんなフラフラにならなくても。友達になりたいのなら話しかけてみたらどうだ?」 「そ、そんな事っ出来るわけないと思うのですが?」 「普通に話しかけてやればいいんだよ。難しいならまずマールに声をかけてみるとかさ」 「うぅ、そのような高難易度ミッション。そ、そうだ! 先生、協力して欲しいのですが」  クロエルは瞳を潤ませて俺を見上げる。眩しい、クロエルがここまで眩しい表情をするとは。  クロエルなりに今、必死に訴えかけているのだろう。ここで協力してやらなくて何が教師だ。  ここは俺が、一噛みされてやるか!! 「よし、先生に任せとけ。明日から先生の近くにいればいい。ガブリエルが先生に噛み付いた時が頬っぺたチャンスだ!」 「おぉ! 頬っぺたチャンス! むふぅ!」  ◆◆◆◆◆  こうしてフォルネウス2世とクロエルのガブリエルの頬っぺたプニプニ大作戦が幕を開けた!  頑張れクロエル! ガブリエル2世の頬っぺを思う存分プニプニするのだ!!  ◆◆◆◆◆
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