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9時限目【ロリエル勧誘大作戦】
◆◆◆◆◆
シャムシエルのおっ○いキーホルダー付きの家鍵が見つかった日から数日が過ぎ、天使部の結託、クラスの雰囲気は入学当初よりはるかに良くなっていた。
しかし、担任フォルネウスには、気がかりな問題が一つ、残されていた! ——その問題とは!!
◆◆◆◆◆
「それでは、出席を取る。アラエル」
☆出席確認中〜っす!☆出席確認中〜っす!☆出席確認中〜っす!☆出席確——
「はいエル!」パチクリ!
「次、ロリエル」
「むぅ……」
窓の外を眺めるロリエル。今日もダンマリか。この前は少し話せたし、心を開いてくれたと思ったのだが、どうやら一筋縄ではいかないようだ。
いや、俺は何を真剣に天使のことを……一刻も早く魔界に帰る方法を見つけないといけないのに、やることが多過ぎてそれどころじゃないんだよな。
で、結局こうしていつも通りの1日が始まるってわけ。本日も晴天、天使達の眼差しも眩しい。そう、いつも通りの日常だ。
朝のホームルームを終えた俺が教室を後にしようと踵を返すと、騒ぐ天使の声が耳に飛び込んできた。カマエルの声だな。
「そういや、今朝の魔界戦隊見たかぁ? やっぱ格好良いよなぁ!」
カマエルは魔界発の戦隊ものにハマっているようだ。天界と魔界、400年程前に和平条約が締結され、それからは異文化交流も盛んになった昨今、天界で魔界のテレビ番組も放送されるのだ。逆に魔界では天流ドラマなるものが一時期流行っていた。
とはいえ、お互いがその領地に踏み入ることは未だに許されていないのが現実で、戦争こそなくなったが、まだまだお互いを知らぬ存在同士なのは否めない。何万年も敵対していた天界と魔界が、そう簡単に打ち解けるわけもないが。
「ん? 何だ、それは?」
アルミサエルは楽しそうに話すカマエルの相手をするが何の話か理解はしていない様子だ。普通の女の子ならこの反応が妥当だな。
だって、戦隊モノだぜ? だが、しかし、
「おいっす、カマエルちゃん! 拙者、今朝もバッチリ見てきたっす! あの、シュババッ! ってのがイカしてるっすね!」
しかし、残念ながら我がクラスの委員長、そして天使部部長のマールも、その戦隊モノにハマっている様子だ。
マールは必殺技のモーションを真似て見せては、頬を薄っすら染め上げ、目も眩むような笑顔を炸裂させた。流れ弾が俺を襲う。
「おおっ! かまってくれるのかっ! それはグレート悪魔カッターー! っだな! あれはイカしてるよなっ! シュババッ!」
ま、相当盛り上がっているようだしいいか。
2人は並んで必殺技を放つ。それを少し戸惑いながらも優しく見守ってやるアルミサエルはやはり少し大人である。意味はわかっていないが。
ふとロリエルに視線を移すと、そんな2人を冷たい眼差しでチラリと見ては、すぐに窓の外へ視線を移動させ頬杖をつく。
——
そして今日も、例外なく部活の時間がやってきた。
全員が部室、——俺の部屋に集まったのを確認したマールは、すっくと立ち上がり小ぶりな胸を張った。部員達はそんなマールを見上げ、同時に首を傾げるのだった。
「皆んなに相談があるっす!」
瞳に宿らせた花びらを煌めかせながら、マールは皆に進言する。
「何なの、依頼なの〜?」
ガブリエル2世が俺に噛みつきながらマールに問いかける。とりあえず降りろこら! すると、マールは首を横に振る。
「ガブリン、そうじゃないっす。拙者、この前の事があってずっと考えてたっす。天使部にロリエルちゃんを勧誘したいんすよ!」
「ロ、ロリエルちゃんって、あ、あの、ロリエルちゃん、ですかぁっ!?」プルプル
クロエルのプルプル度が上がった。1秒間に2000回から2200回くらいの微弱な差だが、担任である俺にはわかる。と、それはさておき、ロリエルの勧誘か。これは願ってもいないことだ。
クラスで1人、いまだに馴染めていないロリエルをマールが取り込んでくれると助かる。
「そうっす、あのロリエルちゃんっす。いつも一人で空を見ているのが気になってたっす。
それにシャムシャムのおっ○いキーホルダー付きの鍵を見つけた時も、帰らずにずっと校内を捜し回っていてくれたし、拙者、ロリエルちゃんは優しい子なんだと思うんすよ!」
「部長のマールちゃんが言うなら〜、いいんじゃないかなぁ〜?」
モコエルはそう言って皆んなに視線を合わせる。
「ガブは別に構わないの〜、マールがいればそれでいいの〜」
「わ、わ私もっ! ガブリエルちゃんの頬っぺがあればそれでっいいのっですが?」プルプル!
「や、やめてなの〜!」
クロエルが暴走し、ガブリエル2世を追いかける。ガブリエルはフワフワと逃げ回っているがやがて捕まり極上の頬をプニプニされてしまう。
ガブリエルって意外とやられ役だよな。
あぁ、本当に柔らかそうだな……って、駄目だ駄目だ! 間違ってプニろうものなら、指が飛ぶと肝に銘じておかないと。それ以前に、事案だ。
「でもぉ、どうやって誘うの〜?」
モコエルは人差し指を口元に当て首を傾げる。
「そこなんすよ。ロリエルちゃんはあまり人と話さないっす。でも、ここは戦隊ヒーローみたいに当たって砕けろで行くっす!」
え? 砕けたらいかんだろ、砕けたら!!
「それならまずは顧問のフォルネウスが行くの〜! フォルネウスなら砕けても問題ないの〜、名案なの〜。皆んなガブを褒めろなの」
ガブリエル2世は部屋の隅で存在を消していた俺に、砕けて散れと特攻指示を出し、跳ねても揺れない幼児体形を惜しみなく張り、ドヤ顔を炸裂させた。
「ちょっと待て。何故俺が!?」
砕けてたまるかっての! 却下だよ!
ガブリ!
「ぬがぁっ! 久しぶりにやられたっ!」ぴゅーっ
「もう一発噛まれたくなかったら、黙ってやれなの〜、フォルネウスのくせに〜!」
くっそ〜ガブリエル2世め。
何というか、視線を感じる。眩しい眩しい、4人の天使が、俺に手本を見せろと、熱い視線を送ってきやがるよ。漢らしく砕けて見せよと。
「はぁ、分かったよ。やるだけやってみるか。だが、決行は明日だ。今日はこの傷の治療に専念する」ぴゅぴゅーっ
「分かったっす! さすがは顧問っすね! ロリエルちゃんも今日は既に帰っちゃってるし、拙者達も今日は帰るっす!」
「あ、それじゃぁ帰りにアイスを買って帰るの〜! そうと決まればこんな狭くて汚い部屋とはおさらばなの〜」
聞き捨てならんぞ! 狭いのは狭いとして、汚いのはお前ら、主にお前のせいだよ?
全く、自由な奴らだよ。まあいいや。
今はこの出血を止めることに専念しよう。このままだといつか輸血が必要になるぞ。
部員達が窓ガラスを破りながら去ったのを確認した俺は、ひとまず破片を拾い集め、ガムテープで丁寧に補修し、そのまま保健室へ向かった。
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負けるなフォルネウス!
顧問としての威厳を示すのだ!
そのためには、まず、止血しよう!
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