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「ただいま!」
夫が帰ってきた、早苗はリビングの扉の前に座り込み、カーテンを見つめたままでお帰りと言った。
「殺虫剤買ってきたよ。」
電話でゴキブリが出た事を知った和志は、コンビニで殺虫剤を買い求め、急ぎ帰宅したのだった。
「…多分…カーテンの所…。」
早苗は、電話の途中からそろそろと後ずさってリビング出ながらも、ゴキブリを見失った最後の場所であるカーテンをずっと見張っていた。
「分かった、危ないから…ドア…閉めるよ。」
「和志さん。」
「気を付けてね。」
ギィと音を立て、リビングの扉が閉ざされた…。
「うわっ!わっ!」
扉の向こうでは夫が悪魔と戦っているのであろう、時折聞こえる叫び声に、いたたまれなくなって声が出る。
「和志さん!大丈夫?」
「…。」
「和志さんっ!?」
その時、扉が開いて夫の和志が顔を出した。
「もう大丈夫だよ。」
そう言って口の結ばれたコンビニ袋をかざした、おそらくゴキブリの死体が入っているのだろう幾重にも重ねられたティッシュが、壮絶な戦いを想像させる。
「手を洗って?今日のグリーンカレーはいい出来よ。」
「もう、お腹ペコペコだよ。」
若い二人はお互いの顔を見つめ合い笑った。
だが早苗は気付いて居なかった…。
退治されたゴキブリがメスで、最初に見たときに抱えていた卵が無くなっていた事に…。
完
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