最高の愛の形

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最高の愛の形

 俺の家来は本当に優秀だ。パンサーは眼が見えなくたって、兵士として戦えるし人の案内もしっかりできる。あんまりにもよく働くものだから、言われないと義眼であることも気づかれないことだろう。  人間は、視力を失うと別の感覚が研ぎ澄まされる、というのは本当のことかもしれない。彼を見ていると、常々そう思う。 「王子、連れて参りました。サイア様でございます」 「うむ」  私の趣味で、専用の玉座の間は青を基調としたもので溢れている。通常赤い絨毯が敷かれるところ、青い絨毯になっているのもそういう理由だ。  その道をてくてくと歩き、パンサーが連れてきてくれた娘。彼女は城下町に住んでいる、労働階級の人間だった。印刷業を営む一家ということもあってか、服には洗っても落とせないインクがあちこち染み付いていて匂いもする。あまり裕福ではないこともあり、化粧らしい化粧をしている様子もない。痩せてそばかすだらけの頬も、傷だらけの指もそのままだ。だが。  それでも構わない、と私は思っていた。彼女の魅力は、そんなところにあるわけではないのだからと。 「こ、このたびは光栄でございます、ガスト王子」  サイヤは恐縮しながら、古ぼけた茶色のエプロンとスカートの裾をつまんで挨拶をした。明らかに緊張している。私は急に呼び出してすまないね、とにこやかに挨拶した。 「こちらこそ、仕事もあるのに突然呼んでしまってすまない。その間を埋める代金はきちんとこちらから支払うから、安心してくれたまえ」 「め、め、滅相もございません!そのようなこと……」 「いいんだよ。急に呼んでしまったこちらがいけない。実は君に、お願いしたいことがあって呼んだんだ。まだ三回ほどしか会っていないのに、不躾であることは十分わかっているのだけれど」  言いながら、私はいつものように彼女の姿を上から下まで観察する。  確かに、あまり栄養状態がよくないのか、肌にも髪にもあちこち痛みが見える。しかし、その髪は太陽の光をキラキラの反射する黄金色であるし、瞳は透き通るような青い色だ。女だてらに外に出て、売り込みに行くことも少なくないからだろう。肌は綺麗に小麦色に焼けていて実に健康的。もっとごはんを食べてふっくらすれば、見違えるほど美しい娘になるだろう。  彼女と出会ったのは、私のちょっとした“趣味”がきっかけだ。  他の王子達とは違い、私は町に出て一般庶民と交流することが大好きだった。私の兄や弟は“貴族ではない者に阿る理由はない!むしろ汚らしい連中なんぞとは話すだけで口が腐る!”なんて酷いことを言うが、私は全くそうは思わない。  彼らは私達とは生活も文化も何もかも違う。彼らと交流することは新鮮であるし、何より民に寄り添って彼らを幸せに導くのは王族の役目ではなかろうか。貴族だけ、王族だけから話を聞いていては、正しい政治などできるはずもないのである。
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