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僕は努力することにした。幼馴染としてではなく一人の男として、または一人の人間として彼女に魅力を感じてもらわねばならなかったからだ。いろいろ考えた結果、僕が目を付けたのは九月二十日の一花の誕生日だった。
彼女の誕生日は毎年しっかり祝っている。年によってプレゼントをしたり、一緒に出掛けたりと祝い方はいろいろだが、きちんとお祝いをするのがルールとなっていた。
この年は部活での大会などが立て込んでいたから、お祝いはプレゼントで行うことにした。贈り物は毎回悩む。女の子の好きなものなんて幼馴染でも分からない。使い勝手のいいものを選ぶようにしてきたが、彼女がそれを学校に持ってきているところを見たことがない。
それでも、彼女は喜んでくれる。だから僕は大好きになった。
僕は部活帰りに駅前の雑貨屋に寄った。男子には入りづらかったが、女の子の好きそうなものが手頃な値段でたくさん売っている。僕はとりあえず中を一周してみることにした。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
少し驚いた。声の主はもちろん店員さんなのだが、全く雰囲気に合っていない僕をわざわざ選んで声を掛けたのだと思うと、心地の悪さが増幅した。
でも。これは救いの手だった。プレゼント選びに悩んでいると察して話しかけてくれたのなら、それはさすがプロと言うべきだろう。
「実は、女の子にあげるプレゼントを考えていて……」
「そうなんですね。彼女サンにですか?」
「……違いますけど、まあそうなったらいいな、なんて……」
「じゃあ、いろいろご紹介させていただきますね」
早速店内を回り出す店員の後ろをついていく。何度も来ているはずなのに知らない商品がたくさんあって、とてもわくわくした。
「お相手はおいくつですか?」
「同級生です」
「甘酸っぱいなあ。難しいですよね、年頃の女の子へのプレゼントって」
「何が好きか全然分からないんです」
「ですよね。では、これとかどうでしょう?」
手に取ったのは、チャーミングな女の子が刺繍されたハンカチだった。
「とても人気なんですよ。ハンカチってずっと持っているものだから可愛いもの方が気分が上がるでしょう? しかも、何枚あっても困らないじゃないですか。だからプレゼントにぴったりなんです」
毎日持ち歩くものだったら好きな柄の方がいいし、毎日使うから枚数は多い方がいい。しかし、ハンカチはあまりにも定番すぎる。今回は彼女が喜びそうなものを選べばいいというわけではないのだ。ライバルのあいつが選ばなさそうな、もしくはあいつのより喜んでもらえるものを選ばなければいけない。
「ちょっと違いますね……」
「そうですか。では、これなんてどうでしょう」
と、向かいの棚に置かれていた商品を手に取った。キラキラしたケースが小さくて可愛らしい。どうやら中にはクリームのような何かが詰められている。
「リップクリームです」
「こんな缶に入っているのもあるんですね」
「使い終わったら普通にカンカンとして使えるので、すごく人気なんですよ」
確かにこれだったら見た目の可愛さだけでなく、実用性もあるし使い終わったあとも使い道がある。でも、男がこんなものをあげたら気持ち悪いだろう。
「他にオススメはありますか?」
「いいのありますよ」
今度は店の入り口の方へ向かった。ポップには『新作入荷』と書かれていて、やはり可愛らしい雑貨が並んでいた。
店員さんが手にしたのは、パステルカラーでワンポイントのポーチだった。
「いやいや、化粧ポーチはどうだろう……。僕の学校はお化粧禁止なんです」
「いえいえ、お客さん。今どきの女の子はお化粧しなくてもポーチは持っているものですよ。ハンドクリームやブラシは必須だもの」
そう言われればクラスの女子はみなこんなポーチを持っている気がする。でも彼女のそれは見たことがない。
だったら、これが一番いいのでは。
「いいですね、これ。これにします」
「お買い上げありがとうございます!」
――こんなふうに悩みに悩んで決めたプレゼントだった。だから、ちゃんと受け取ってくれるか、喜んでくれるか心配で、当日、激しく高鳴る胸を押さえながら教室へ入った。人気者だった彼女はすでにクラスメイトに囲まれて誕生日を祝われていた。僕も早速あそこに混ざって――そう思った。教室を一歩入ったところで見てしまった。
「見て見て! これ、永峰くんからもらったの」
喜々とした彼女の手元には、見覚えのあるポーチが見えた。僕の選んだものと、彼は同じものを選んでいた。
僕は手に持っていた包みを鞄の奥に押し込んでから、彼女を横目に席についた。
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