椅子取りゲームの決着

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椅子取りゲームの決着

新婦が聖壇に到着した。新郎新婦のおそろいの白は壮観で、一瞬息を呑んだ。 しかし同時に、自分が参列者の席に座っていることを実感してしまった。僕はあそこにいないんだと改めて自覚してしまった。 視線の先では誓いの言葉が行われている。牧師様の言葉にそれぞれ「誓います」と続ける。二人は晴れて夫婦になるのだ。 そして、指輪の交換。お互いの指に指輪をはめ合う。夫婦としての証をここで身に付けるのだ。 ――僕は本当に好きだった。いつも隣にいて、僕だけのものだったのに、いつの間にか遠くに行ってしまった。そんなところを彼に取られた。男女問わず好かれるようないい人で、気が利いて、僕よりずっとかっこいい。そんな彼が先に彼女をゲットした――それだけの話だ。それで、ここまで差がついたのだ。僕はあのときの自分を呪ってやりたい。うじうじしていたから先取りされたのだ。   「――では、誓いのキスを」  静まり返る式場で牧師様の声とともに、僕は立ち上がった。聖壇に向いていたはずの視線が一気に集まるのを感じながら、バージンロードの中心に立った。どよめきの中、一心不乱に直進する。ベールが上がって露になった彼女は目を大きく見開いていた。  僕は彼女の左手をぎゅっと握った。 「お前、何してるんだよ! 式の最中だぞ!」 「ごめん、永峰。」  僕は彼女の目を真っ直ぐ見た。  そして。 「――ずっとあなたが好きでした」  それ以上、言葉は紡がなかった。  彼女は彼の方をしばしじっと見つめた。彼の目は彼女をどう映していたのだろう。 しかし、彼女が僕の手を強く握り返すのは誰も止めることができなかった。
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