ドラマティスなペルソナたちへ

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ドラマティスなペルソナたちへ

 僕は冴えない舞台役者。  いつか主役になることを夢に見て、今日も舞台袖から主役の演技に見惚れている。 ・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・  「おい、そんなに穴が開きそうなほど見たって、主役様がこっちを見るわけないだろ。」  後ろから声を掛けられて振り返ると、吊り目の男が立っていた。不機嫌そうな目で僕を見ている。  この人も舞台役者だ。ちょっと怒りっぽいけど、いい人だと、僕は思う。 僕らはいつも暗がりで主役の演技を見ている。スポットライトの当たるただ一点を共に目指して。あの場に立てるのはただ一人だということもお互い理解した上で。  「俺は、今日はもう帰って寝る。お前もほどほどにしとけよ。」  僕が返事するよりも先に彼は暗がりの奥へ消えてしまった。  「あら?今日もいるの?熱心ね。」  それとは入れ替わりにまた役者が入ってくる。おっとりして、柔らかい雰囲気の女性で、僕が憧れている主役とは別方面だが、何度か主役を受け持ったこともあるらしい。この人も主役を狙っているのだろうか?それを僕は知らない。  「頑張るのはいいけど、休息も大事よ?」  彼女はそう言い残して、上手に向かう通路に消えてしまった。  彼女も去って少しして、僕は舞台袖に寝転がった。床は埃っぽくてツンとカビの匂いがする。だが、それさえ我慢してしまえば、ひんやりとしていて心地よかった。時折、頭を上げて舞台を見るけれど、首が疲れてきちゃって、ただ目を閉じてセリフを聞いているだけの姿勢になった。けれど、それも次第に途切れていって、僕の意識は幕間に沈んでいく。
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