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とん、とん、とん……。
背中にまだ痛みを感じる。小さな子供の足に蹴られているような柔らかい、それでも痛い痛み。
とん、とん、とん……。
僕はその痛みから逃れたくて寝がえりを打った。何か、背中の下にある気がする。ぼんやりと目を開けると、仏頂面をした子供と目が合った。
「ちょっと、こんなところで寝ないで。ハケるのに邪魔。」
途端、僕は今の状況を理解して、跳ね起きた。
「ご、ごめんなさい……!」
彼の小さな両足に乗っている背中を即座にどかして、僕は床に顔をつけて起き上がろうとする。埃とカビが、僕の鼻腔を容赦なく襲った。
「ごほっ!げほっ!おえぇ……!」
「おい。」
子供の指差す方向を見て、僕は慌てて口を押さえた。上演中だったことをすっかりと忘れていた。
尚も鼻と口に嫌な臭いが充満して、えずく僕を他所に子供はボロ毛布に包まって、端に腰を下ろした。
「さっきまで……おえっ……出てたの……?」
そう僕が聞くと毛布が小さく動いた。
てっきり僕は頷いているのだと思ったけど、よく見るとその毛布は小刻みに震えていた。
「大丈夫……?」
「…………。」
「え……えっと……」
僕はそっと近くに寄ると、小さな子をあやすように優しく毛布を撫でた。
「その……もし、失敗したとしても、その大丈夫というか、僕も前、舞台で大失敗しちゃったっていうか………」
しかし、毛布はうざったいとばかり邪険に左手を振った。
「うるさい。どっか行け。」
その指示は単純で明確だった。僕が何も言えずに動けずにいると急かすようにまた左手を振った。
先ほどまで舞台に出ていた、ということは一応、彼は僕の先輩だ。大先輩と言っていいかもしれない。事を荒立てないように、素直に頷いた。
「う、うん……。分かったよ……。」
「しばらく顔も見せるな。」
「うっ………」
随分と厳しいことを言う。自室に戻ったところで、特にやることもない。先ほど眠って睡眠は事足りているし。それでも、僕はあの子の言うことに従うことにした。
僕が立ち上がって背を向けると、あの子は側にいた別の役者と話し出した。
「統括が………」「……呼びに………」
それを背に、僕は眠たい目をこすって帰途につく。
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