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僕は目の端に光るものを見つけた。一片、ガラスが、落ちていた。示し合わされたかのようなそれは、まるで人なんか傷つけられなさそうに鈍くて、丸っこかった。しばらく、数十分、数時間、数日間、見つめてから、僕はそれを掴んで飛び出す。
主役は、下手から飛び出た僕のことに気付かなかった。流れるようにセリフを吐き、観客を魅了していた。
僕は言葉にならない声をあげながら、そいつ目掛けて身体からぶつかり、スポットライトが当たる場所から押し出す。それから馬乗りになって何度も何度も殴った。
「おまっ、お前っ、なんなんだよ!俺は主役だぞ!こんなことして許されると思ってんのか!?」
異変を察知したのか、あの眼鏡がスポットライトの下に滑り込み、観客相手に引き攣った顔で説明をしていた。
それでも僕は止まらない。スポットライトが当たらないのをいいことに、僕は止まらない。僕に抵抗する声が弱まっていく、僕に抵抗する力が弱まっていく、僕の勢いも弱まっていく。
眼鏡が次に僕を見た時、既に主役は息絶えていた。僕は物言わぬ骸に向けて呟く。
「僕の人生の主役は、僕だよ………」
あいつのことは口をつけなかった。僕が立ち上がると眼鏡は何も言わず、スポットライトの下を明け渡す。
「幕を降ろしてください」
僕がそう告げると視界が真っ暗になった。
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