第二章

9/58
61人が本棚に入れています
本棚に追加
/411ページ
「まさか。今日はまだ平日の朝ですよ? 山内さんのお仕事って、休みは週末だけみたいですから、今の時間からお酒はないと思います」 「ああ……」  言われればそうかもしれないが、たまたま職場が休みという可能性だってある。  もしそうならば、調子に乗って平日の朝から一杯ひっかけてしまう人間だって、世の中には存在するだろう。  そう考えたものの、口に出しては余計かと判断し、俺はそのまま納得したように黙っておく。  そんな俺を見て同意を得たと思ったのか、桧原さんは意を決したようにインターホンを鳴らした。  ピンポーンという、なんとも標準的な音がドアの奥で響くのを聞きながら、暫し二人で反応を待つ。 「……出てこないですね」  顔を出さなくとも中から応答くらいはすると想像していた俺は、訝しく感じながら呟きをこぼす。 「寝てるのかしら?」  今一度、桧原さんがインターホンを鳴らす。  それでも中からのリアクションは何一つ返されず、ひたすら静寂だけが目の前のドアをすり抜け俺たちの身体へまとわりついてくるだけだった。
/411ページ

最初のコメントを投稿しよう!