プロローグ

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 嫌気がさすほど歩き慣れた町中には、毎年恒例のクリスマスソングが馬鹿の一つ覚えの如く鳴り響き、男の神経を逆撫でするようにまとわりついてきていた。  横切るショーウィンドウの奥には、クリスマス特有のきらびやかなデコレーションが施され、ケーキ屋の前ではサンタクロースの格好をさせられたアルバイトらしき若い男が、つまらなそうな声でケーキの売り込みをしているのが横目に見えた。  そのバイトの覇気がない顔に共感を覚え、一瞬ケーキを買ってやろうかと足を止めかけたが、どうせ渡したいと頭に浮かんだ相手には受け取ってなどもらえないとすぐに悟り、そのまま素通りすることで己の思いを振り払った。  何をしたところで、受け入れてなどもらえない。  実際、初めて出会った日から今日まで、何をしても成果はなかった。  男が好意を向ければ向けるほど、あの女はそれを強く拒否し俺への嫌悪感を露わにしていった。  今ではもう、男の顔を見ただけで表情を強張らせ、逃げだそうとする素振りすら窺わせるほどになっている。
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