第二章

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「実はもう出勤して、留守になってるとか?」  悪いとは思いつつそっとドアノブを回してみるも、当然ながら施錠されおり開けることはできない。 「困ったわね。本当にどうなってるのかしら。こんな臭い、いつまでも嗅がされてたら他の人たちだって不審に思うでしょうに……」  不審、まではなくとも、確かに朝っぱらからこの臭いは違和感というかおかしな感覚は付きまとう。  とは言え、これだけのことで管理している不動産や警察へ連絡をするというのも微妙な気もするし、仕事が終わり帰ってくるまでの間に落ち着いていることを信じ、放置しておいても良いのではと思う部分も自分にはある。 「あ、おはようございます。どうかされましたか?」  そろそろ仕事にも行かなくてはならないし、桧原さんには悪いがこの辺りで自分は退散しようかと思いかけた矢先に、隣の一〇三号室のドアが開き一人の女性が姿を現した。  ボーイッシュなイメージを与えてくる黒髪が、個人的には一番強く印象に残っている女性。  年齢を訊ねたことはないが、恐らく三十前後なのではと予想ができる。
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