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大学を卒業後、数年ぶりに訪れた故郷は、いつになく寂しい趣に変わっていた。
所々に重たく浮かぶ鉛色の雲。執拗なまでに透明な冬の空。白い光が降り注ぐ駅前の商店街は閑古鳥が鳴くほど廃れていて、ほとんどシャッター通りと化していた。すれ違う人もいなければ、行き交う車もない。
「昔はもっとに元気があったと思ったんだけどなー」
そうつぶやいて、キャリーバッグを両手で引っ張り実家へと向かう。
細い県道の細い歩道。車なんて来ないとわかっていながらも律儀に白線の内側を歩く。途中、今にも潰れそうな個人経営のコンビニを見つけ、飲み物でも買おうかと自動ドアを潜った。
出入口で、男の人と、すれ違う。
何気なく視線が動く。見覚えのある横顔に、ふっと、過去の淡い青春がよみがえる。高校の時の、勇気の出せなかった、片思い。
まさかと思いながら、男の人を呼び止める。
「ひょっとして先輩……ですか?」
男の人は振り返り、不思議そうに首を傾げてこっちを見る。その柔和な眼差しは年を経てもわかる先輩のそれだった。
妙な沈黙が数秒続いた後、パッと先輩の顔が明るくなる。
「あ、あぁあ、もしかしてマネージャーのショウコちゃん?」
「はい、 お久しぶりです」
一言では言えない複雑な想いがこみ上げてくる。
「いやぁ、高校卒業以来だねぇ。随分と綺麗になって、全然気がつかなかったよ」
コンビニ前で少し世間話をして、帰省途中であることを告げると「それなら車で送ってあげるよ」と先輩は昔のように優しくしてくれた。
あまり図々しい女だと思われたくなかったが、荷物もあったので言葉に甘えて先輩の車の助手席に遠慮がちに座る。
けたたましいエンジン音。緑の多い田舎道を、私たちを乗せた、密室の車が走る。
きっと先輩は私が想いを寄せていたことなんて知らないんだろうなぁ、と思いながら共通の知人のことや、今何をしているか等々、他愛のないことを口にした。
片思いのことを伝えるべきかいなか、一瞬躊躇した。今となってはもう時間が経ちすぎていて本当に意味のないことだとわかっていたからだ。
そうこうしている間に車が止まり、実家についてしまった。
「じゃぁ、オレはこれで」
そう言って去っていく先輩。私は頭を下げてお礼をした。
先輩の車を見送りながら私は思う。
よくもまぁ先輩が先輩であると気付けたものだ、と。
学校一のイケメンだった先輩の姿はほとんど消え、頭は禿散らかり、身体は丸々と太り、顔は体脂肪が滲み出たかのように光り、とても二十代とは思えなかった。
街も人も、変わらないモノなどないのだと思い知った。
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