妄想天獄

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妄想天獄

「そういやさ、結構前の話なんだけどじっちゃんが良い老人ホームに入れたんだよね。天愛館って知ってる?」 ほんの少し開いた車の窓から初夏の風を受けながら、他愛も無い雑談は続く。 「マジ?あのめっちゃでっかい所でしょ?タカの爺ちゃんラッキーじゃん!」 タカというのは車を運転する男の呼び名だ。 「そうなんだよ!ケンのじっちゃんは元気だからまだ先の話だろうけどさ」 ケンと呼ばれる男はタカの幼なじみである。少し軽薄そうな風貌でタカより少し遊び慣れた雰囲気を醸し出している。 二人が暇になると大抵こうして車を出して地元から少し離れた食事処へ行くことが多かった。今日は海の幸を求めて港町へ車を走らせているわけだ。 タカは続ける。 「じっちゃんも気に入ってんだよね。その老人ホーム。何でもしてくれるから天国みたいなんだってよ」 老人ホームを天国と形容するのはいささか不謹慎な気がしなくもない。 「そりゃあいいな。でもさ、天愛館って変な噂聞くけど大丈夫なん?」 「変な噂?なんだよそれ?」 タカはキョトンと聞き返す。老人ホームが舞台の変な噂だなんてきっと良い話じゃないだろう。タカの表情がほんの少し曇る。
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