第Ⅱ部

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 2 TOL  2034年7月14日。  その時も私は,ラ・ニュヴェレ社のビルにいた。時刻は昼過ぎ。「農園の悲鳴」と題して,低迷するトマトの売り上げを扱った記事をまとめていた。「干ばつの影響です」と簡潔に述べるのがいいのか,「トマト事件の影響です」と深読みすべきか,自分の中でなかなか決着がつかないでいた。一息つこうとコーヒーを飲むと,内線が入った。事件なのか。  急いでデスクを離れ,「電話の主」を探す。彼は,その時も読書をしていた。呼びかけようとすると,「いくぞー! のんたーん! ミラクル・ムーンビーム!」 彼はいつものように奇声を上げ,一回転して軽やかに着地。ビシッとポーズを決めてきた。  静寂。  期待を裏切らない登場,どうもありがとう。紹介しよう。そうだ。ミシェル・ポアソンである。彼は私に気づくと,ウインクしてきて,「悪いモンスターはお仕置きだぞっ」。ジェンダーフリーをはき違えるとこうなるのである。  彼の意識がのんたん(?)から帰ってきたので,呼び出した訳を訊く。すると彼は咳払いをしてから,言い放つのだった。 「トイレが変わるかもしれない」  私たちは階段を駆け下り,キャプチャに乗り込んだ。なんでも「TOL(トール)」が記者を集めて,重大な発表をするというのだ。
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