第Ⅱ部

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 時間。マイクを握ったロバート社長が姿を現した。拍手が沸き起こる。彼は手短に報道陣を(ねぎら)ったあと,ステージに注目させた。      * * * 『パッと布が取られました。オフホワイトの洗浄機能付きユリノワールが姿を現しました』 ──ミシェル・ポアソン。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。 『場がどよめきました。チェミレンは“愛あるパッド”の生みの親ジョブズのような形相で立ち続けます。カメラで何枚も写真を撮りました。でも,報道陣を集めた大掛かりなプロモーションに,違和感を覚えたのも事実です』 ──私。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。 『形状は,なんというか,卵のような楕円体をしていました。そして隣接するように,性別をで表記したパネルが掲げられていました。一目ではトイレだと判りません。さらに画期的なこととして,どのボタンにもピクトグラムが用いられておらず,どんな人でも気おくれすることなく使用できるようになっていました』 ──ミシェル・ポアソン。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。 『社長は言います。「最新作のトイレです!」』 ──私。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。 『これはアヴァンギャルド(前衛的)であると同時に,強い社会的メッセージを含んでいました。実用性こそなかったかもしれませんが,ジェンダーを意識して,大手ユリノワール業者がこのようなプロモーションを行ったことには,大きな意味があります。そして,フランスの同業者,ひいては世界のトイレ業界に対し,自分たちに足並みを揃えるよう促すものだったのです』 ──リリアン・ベレッタ。通信記者。BBF通信社。      * * *
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