第 Ⅲ 部

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第 Ⅲ 部

1 謎のEメール  トイレを取り巻く社会全体が,徐々に動き始めていた。同僚ミシェルに,謎めいた一通のEメールが届いたのはこの頃であった。送り主はBBF通信のベレッタ氏であった。  彼女は,TOLの一件があってから,ちょくちょくミシェルとメールのやり取りをするようになっていた。      * * * 『メールをするようになってすぐ,彼からデートのお誘いが来ました』 ──リリアン・ベレッタ。通信記者。BBF通信社。 『彼女に,休日は何をしているのか尋ねると,「ショッピングとかカフェ」と返ってきました。自分は両方とも好きではなかったので,雰囲気の良い喫茶店を探すのに苦労しました。「次の日曜日はどう?」と訊いて,オーケーが返ってきました。とにかくきちんとしていかないとと思い,張り切りすぎたようです』 ──ミシェル・ポアソン。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。 『彼の姿は,なんというか,ニワトリみたいでした(笑い)。変な色合わせでした。ネクタイは曲がっていて,とても好青年とは言えませんでした。でも自分のために頑張ってくれたんだと思うことにしました。後でも直せます』 ──リリアン・ベレッタ。通信記者。BBF通信社。 『店員の女性がオーダーに来て,リリアン(ベレッタ氏のこと)を見て,「まーまー,可愛らしい娘さんだこと!」と叫んでいました。そして振り向いて,僕を見て,固まっていました。通りに面したテラスだったのもミステイクでした(笑い)』 ──ミシェル・ポアソン。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。 『2人で飲むエスプレッソは美味しかったです。最初は緊張しましたが,彼はとても面白い人で,取材の時の失敗や,どんな風に弱点を克服してきたのかを話してくれました。最初だから見栄を張ることもできたのに,そうしなかったのです。物腰の低さに感銘を受けました。これでネクタイの色がまともなら,今度こそ結婚のビジョンが見えてくるかもと思いました。彼は正直です。わたしも正直にならないといけません。それで決めました。彼にはきちんと告げよう』 ──リリアン・ベレッタ。通信記者。BBF通信社。
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