第Ⅰ部

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 カメラを抱え,急いでデスクを離れた。混雑する廊下に,「協力してくれる」その同僚がいた。読書中だった。呼びかけようとすると,「そこだー! のんたーん! ミラクル・ムーンフラッシュー!」 彼は出し抜けに奇声を上げ,アイススケーターのように空中で一回転し,軽やかに着地。ビシッとポーズを決めてきた。  静寂。  気を取り直して紹介しよう。彼こそ,ラ・ニュヴェレ社の記者で,残念な同僚でもあるミシェル・ポアソン(Michel Poisson)である。彼は私に気づくと,ずれていた太枠メガネを直し,「やあ」と言った。      * * * 『覚えているのは,「美少女戦士のんたん」の最新刊がその日に出たことです。待ちに待ってようやく販売されたんです。さすがクールジャパン。期待を裏切りません。小説は面白かった。最高でした。ドキドキしながら読んでいると,フランツ(私のこと)が来て,窓を見るよう促してきました。それまで,街の中心部から黒煙がモクモク立ち上っていることに,まったく気づきませんでした』 ──ミシェル・ポアソン。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。      * * *  私たちは急いで階段を降り,地下に停めてあるノルーのキャプチャに乗り込んだ。エンジンをかけると,ゲートが開く。ミシェルは巧みなハンドルさばきで,キャプチャを道路まで導いた。ラジオからは,アップテンポなセザールの新曲「 L'avenir(未来) est() imprevisible(予想不可能) 」が流れてきたのだった。
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