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では探偵になったつもりで,「マーク」と向き合ってみることにしよう。「マークを変えろ」とはどういう意味か。そこが『ショッピングモール』フォンティーヌであったことを考えると,商品のロゴやタグに文句を言っていたのではないか。
高価な衣料品がずらりと並ぶブランドショップ。EU(European Union 欧州連合)に依然として残る経済格差が,彼女を暴行へと駆り立てたのではないか。
また,被害者が『清掃員』であったことを考えるなら,彼の名札やワッペンに怒っていたのではないか。
彼女があの時,失業を余儀なくされる状況だったとしたらどうだろうか。実際,ミスリス共和国は,スペイン・ショックの影響をまともに受けた国の一つである。深刻な経済難の中,フリーのプログラマーとしてやっていくのは大変だっただろう。自分は困窮しているのに,“こんな清掃員”にすら満足な仕事がある。やり場のない怒りが,暴行へと凶変したのだろうか。なるほど。そうかもしれない。
では,ここで視点を変えてみることにしよう。自分が清掃員なら,彼女の言葉をどのように理解しただろうか。事件が起きたのは,生鮮食品ブースと衣料品ブースのちょうど真ん中。トイレエリアであった。そして自分は『トイレ』清掃員。トイレの前で作業をしていて,「マーク」と叫ばれ振り向くのはどこか? そう。男性と女性を描いたトイレの「ピクトグラム」である。
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(*) 当時,トイレの前には2種類の視覚記号が掲げられていた。この視覚記号を専門用語で「ピクトグラム」という。その目的は,男性用トイレと女性用トイレを区別することであった。
男性トイレのピクトグラムには,たいていスラックスを穿はいた人間が描かれ,女性トイレのピクトグラムには,スカート姿の人間が描かれていた。
より詳しくは,次の書籍を参照されたい。「トイレとピクトグラム」(T・サイモン)。
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