第1話 一枚のトースト

3/4

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
「おはようさん。相変わらず、すごい頭だな。お母さんに似たのかね。」 「おはよう。父さん。」 「おはよう。私も、学生のときは大変だったわ。毎朝。」 リビングで新聞を広げた父さんと、台所で朝食の用意をする母さんに、朝の挨拶をし、洗面台に向かう。  相変わらず凄い髪である。細い髪で、やや長めであるからか、寝癖が現代アートの如き爆発のようになるのだ。1ラウンド3分の戦いを、3ラウンドで制し顔を洗う。尖ったような水の冷たさで、頭をリセットし、朝食に向かう。腹が減っては戦ができないのである。  「あら、頭スッキリしたじゃない。ちょうどいいわ。トースト焼いて頂戴。」  一体何がちょうどいいのか。 「分かった。1枚ずつで良いのよね。」 「じゃあ。父さんは、お湯だな。母さんは飲むかい。」 「濃い目にお願い。」 渡辺家では、家事は分担制である。  朝食では、料理のうまい母さんが料理を作り、必ずコーヒーを飲む父さんがお湯、そして、私がトーストとなっている。  父さんは片面をよく焼くのが好きで、母さんは両面を軽く。私は温めるだけ。父さんは好きな歌からの影響らしい。スティングだったかな。 「カシャ」  3枚のパン、バター、2杯のコーヒーと一杯の水、トマトとレタスのサラダ、スクランブルエッグ、味噌汁が机の上に並べられる。 「いただきます。」  母さんがバターを塗る間に、味噌汁から手を付ける。我が家の味噌汁は白味噌で、大根、豆腐、玉葱が入っている。  片手で温かくなったお椀を持ち、口を近づける。ふわっと香る玉葱と、味噌の香り。熱を恐れ、おそるおそる口を付けると、ちょうどいい温度。安心し、口に含むと、口いっぱいに出汁と白味噌の塩味が広がる。箸で、具を口に流し入れる。大根、玉葱を噛むことで口に優しい甘さが滲み出る。 「ふはぁー。」 「はい、バター。」 「ありがとう。」  バター、スクランブルエッグ、ケチャップをパンの半分に乗せ、半分にたたむ。反対側からこぼれ落ちないように、少しずつかじりつく。バターの風味、スクランブルエッグの甘さと、ケチャップの酸味。  あぁ。多分幸せってこれですわ。水で、口の中をさっぱりさせ、またかじりつく。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加