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「おはようさん。相変わらず、すごい頭だな。お母さんに似たのかね。」
「おはよう。父さん。」
「おはよう。私も、学生のときは大変だったわ。毎朝。」
リビングで新聞を広げた父さんと、台所で朝食の用意をする母さんに、朝の挨拶をし、洗面台に向かう。
相変わらず凄い髪である。細い髪で、やや長めであるからか、寝癖が現代アートの如き爆発のようになるのだ。1ラウンド3分の戦いを、3ラウンドで制し顔を洗う。尖ったような水の冷たさで、頭をリセットし、朝食に向かう。腹が減っては戦ができないのである。
「あら、頭スッキリしたじゃない。ちょうどいいわ。トースト焼いて頂戴。」
一体何がちょうどいいのか。
「分かった。1枚ずつで良いのよね。」
「じゃあ。父さんは、お湯だな。母さんは飲むかい。」
「濃い目にお願い。」
渡辺家では、家事は分担制である。
朝食では、料理のうまい母さんが料理を作り、必ずコーヒーを飲む父さんがお湯、そして、私がトーストとなっている。
父さんは片面をよく焼くのが好きで、母さんは両面を軽く。私は温めるだけ。父さんは好きな歌からの影響らしい。スティングだったかな。
「カシャ」
3枚のパン、バター、2杯のコーヒーと一杯の水、トマトとレタスのサラダ、スクランブルエッグ、味噌汁が机の上に並べられる。
「いただきます。」
母さんがバターを塗る間に、味噌汁から手を付ける。我が家の味噌汁は白味噌で、大根、豆腐、玉葱が入っている。
片手で温かくなったお椀を持ち、口を近づける。ふわっと香る玉葱と、味噌の香り。熱を恐れ、おそるおそる口を付けると、ちょうどいい温度。安心し、口に含むと、口いっぱいに出汁と白味噌の塩味が広がる。箸で、具を口に流し入れる。大根、玉葱を噛むことで口に優しい甘さが滲み出る。
「ふはぁー。」
「はい、バター。」
「ありがとう。」
バター、スクランブルエッグ、ケチャップをパンの半分に乗せ、半分にたたむ。反対側からこぼれ落ちないように、少しずつかじりつく。バターの風味、スクランブルエッグの甘さと、ケチャップの酸味。
あぁ。多分幸せってこれですわ。水で、口の中をさっぱりさせ、またかじりつく。
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