神様の人間嫌い

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神様の人間嫌い

 滝見神楽神社は華美な名前を冠しているもののお(やしろ)は大きくなく、地元の人がちらほら休日に、散歩がてらお参りに来る程度の神社だった。「滝見」と名前にあるように、地下水をくみ上げて作った小さな滝が境内にあるところが、この神社の唯一の特徴である。  ところが最近、休日になると若い人達が突然どっと訪れるようになった。今若者の間でパワースポット巡りが流行っているらしく、その一つとして滝見神楽神社が話題になっているらしい。なんでも、境内にある滝にお金を入れて恋愛成就を願うと、それが叶うとか。 「…いや、賽銭箱(さいせんばこ)はこちらなんですが」  お社の屋根の上からその光景を初めて見た時の神様は、何故かお社を無視して人工の滝にお金を投げ入れて拝む人々を見て、呆れかえっていた。  そして突然訪れる人が増えた週末が終わる夜、神様は嘲笑を含んだ独り言を言う。 「人間とは誠に滑稽…他人の話を鵜呑みにして、真実を確かめようともせず、自分の行動がいかに的外れか気付かない。それでいて我々への願い事だけは壮大。しかも他の神に浮気はし放題。そんな不遜な願いに応える義理が、一体どこにあるだろうか」  神様が深くため息をついたところで、人気のなくなった境内に一人、高校生くらいの少女が歩いてきた。時刻は23時、明かりもなく滝の水が弾ける音だけが響く神社は、どうしても気味の悪い雰囲気に包まれる。しかし少女は気にする風もなく、つかつかと賽銭箱まで歩いてお金をそっと入れ、手を合わせる。 『どうか、あの人ともっと仲良くなれますように…』  短いお願い事を済ませると、一礼してから少女は踵を返して去ってゆく。 「ほう、この子は滝にお金を入れないのだな」  少女はラフな格好だったので、おそらく近所の子なのだろう。やせ形の体型に長い髪はぼさぼさで、夜のせいだけでなく暗い雰囲気が感じられる。屋根の上で様子を見ていた神様は、わざわざ深夜に願い事をしに来る少女に少し興味を持った。
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