二人の決意

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 親族であるミヅキはこの後、霊柩車が向かっている火葬場に行かなくてはならない。それまでに、一言でもいいから彼女に伝えなければならないことがある。本来であれば、知らない人に自分から話しかけるなどできる性格ではないが、これは私のためであり、太陽のためでもある。彼女が心に決めたことは、ぶれていなかった。 「すみませんあの、朝倉(あさくら)美月(みづき)さん、ですか?」  そのとき、同じ制服を着た、快活そうなショートカットの少女が後ろから美月に声をかけてきた。突然話しかけられて驚いたが、美月はすぐにある可能性に思い至る。もしかすると彼女は… 「あ、はい、あの…アカリ、夜久(やく)明莉(あかり)さん、ですか」 「そうです!私の名前知ってるってことは、あの…太陽から何か聞いてますか」  明莉は一瞬嬉しそうな顔をしたもののすぐに、もうこの場にも、この世にもいない彼の名前を口に出すことをためらうような素振りを見せた。それでも明莉にも、わざわざ知り合いでもない生徒にここで話しかけなければならない理由があるような、そんな意思を美月は感じた。 「聞いてます。太陽は、自分の曲をあなたに歌ってほしい、と」 「私も、演奏をお願いしたい人が近くにいるんだ、って」  太陽は、自分の作曲活動を本格的に形にしようとしているところだった。その一歩として、二人に話をしていたのだ。 「私が太陽から話を聞いたのは、つい一昨日で…これからってときに、こんなことになっちゃって」  沈んだ気持ちを現すように、明莉は傘の下で視線を足元に落として話す。美月は彼女の言葉に、小さな偶然を感じて驚いた。
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