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⑧-2
体育館から威勢のいい掛け声と、ボールをつく規則的な音が聞こえる。
校舎と体育館をつなぐ渡り廊下から少し下がったところに広場がある。
いくつかベンチもあって、昼休みはそこそこ賑わっている。
今日の園芸同好会の活動は、この周辺にあるアジサイの植え込みの世話らしい。
帰りのホームルームが終わってからもどんより突っ伏していた俺は、司に引きずるようにここまで連れ出されて、作業を手伝っている。
今日のお仕事の友である竹箒ちゃんに身体を預けて、俺はため息をついた。
「で、何があった?」
ホースで植え込みに水を撒きながら、司はいつもの調子で言った。
興味深々な訳でも、お節介を焼きたい訳でもない、まるで世間話のついでのように何気なく話を振ってくる司が、今の俺には有難い。
「んー…実はさ」
告白されたんだよね、の言葉が思いの外重くて、口から出たのは蚊の鳴くようなめちゃくちゃ小さい声だった。
司は俺に背を向けて水撒きをし続けている。
俺の方からだと、聞こえたんだか聞こえていないんだか判別がつかない。
多分、聞こえてなかったんだな。うん。
愛しの竹箒ちゃんをきちんと持ち直して作業を再開しようとすると、いつの間にかホースの水を止めた司が、じっと俺の顔を見ながら言った。
「で、どうするんだ?」
あ、聞こえてたんだ。
つか、いきなりそれ聞きます?
遅れてきた司のリアクションよりも、今日1日考えていた問いをズバリと聞かれたことに俺はドギマギした。
「…正直、わかんない」
考えても考えても答えが出ない自分の気持ちを言葉にする。
「相手はルックスもよくて人気者で。誰とでも気さくに話せるいい奴なんだ。勉強も運動もできるし。
なのに俺は、普通の中の普通、なんの取り柄もない地味な奴なんだよ。」
恋愛経験もないしさ、と負け惜しみのようにぼそりと呟く。
自分で言っていて、だんだん悲しくなってきた。
「そんな相手が俺のこと好きだなんて、普通有り得ないよな」
相手は同性だし、という言葉は飲み込んで。
俺は、昨日からずっと頭をグルグルしていた苦しい気持ちを吐き出すように、校舎と体育館の隙間の空に向かって言った。
「どうしたら、いいんだろうな」
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