⑨-3

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⑨-3

―大切なのは、陽太がどうしたいか、じゃないのか? ふと、司の声が聞こえた気がした。 そうだ、俺の気持ちを考えるんだ。 俺は、佐野と、どうなりたいのか。 ついさっき司から貰ったアドバイスを思い出して、ふっと気が楽になった。 佐野は、俺の答えを腕組みしながら、机に寄りかかって待っている。 俺が考えている間にも、視線は外されなかった。 佐野の真剣な目を見返すと、俺は意を決して口を開いた。 「俺は」 「俺は、佐野を、もっとよく知りたい」 「まだ付き合いも浅いし、俺が知っているのは、クラスの人気者の佐野の部分だけだから」 「だから、佐野の他の部分ももっと知りたい」 「どんなことが好きで、どんなことが苦しいのか」 たどたどしく途切れ途切れの俺の言葉を、佐野は噛み締めるようにじっと聞いていた。 俺の結論に佐野は怒ったり呆れたりするかもしれない。 でも俺は、佐野と、1から踏み出したいんだ。 俺は佐野にガバッと勢いよく頭を下げると、腹に力を込めて言った。 「お友だちから、よろしくお願いします!」 ―――――― しんとした教室に、俺の声がエコーのように響く。 何も言わない佐野のリアクションが気になって、俺はゆっくりと頭を上げた。 佐野は、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしばらくすると、 「…ぶっ」 いきなり吹き出したと思えば、次の瞬間には腹を抱えて大笑いを始めた。 予想外のリアクションに俺もびっくりしていたけれど、ひいひい言いながら机をバンバン叩く佐野を見ているうちに、だんだん腹が立ってくる。 涙を流してまで笑うな、こんにゃろう。 「しょーもない答えで悪かったな 」 ぶすくれて俺が呟くと、ひとしきり笑った佐野は、ごめんごめんと謝りながら目尻の涙を手で拭う。 小さく「リベンジマッチか」と聞こえたのは、気のせいだろうか。 姿勢を正した佐野は、俺の目を真っ直ぐに見ながら今まで俺が見たなかでダントツに綺麗な笑顔で言った。 「こちらこそ、どうぞよろしく」
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