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①
ぽかぽか陽気の昼下がり。
午後の授業って、なんでこんなに眠いんだろう。
教室のど真ん中からちょっと後ろに下がったところが、俺こと松本陽太の席だ。
本当は1番後ろの隅っこの方が落ち着くんだけどなぁ…。
眠気覚ましにノートに書いた落書きをグリグリ塗りながら、周りのヤツらに視線をやる。
うーわ…死屍累々…
船漕いでる奴、ノートにミミズを量産してる奴、すでに諦めて机に突っ伏してる奴。
先生は見て見ぬフリをしているけど、さすがにイビキかいて寝るのはやめような。
先生、困ってるじゃん。
落書きをしてまでも生き残っている俺の方がレアなこの状況。
どうせ誰もみちゃいないと、俺は今日イチの大口をあけて欠伸を…しなかった。
―またアイツかよ。
窓際の前から2番目の席。
先生から絶妙に見えない位置にいるアイツは、俺の中途半端に開いた口を指さして 、クスクス笑っていた。
口を閉じてアイツをじっと睨むと、ひらひらと手を振ってくる。
やっほー、じゃねえから。授業中だから。
西陽が差すと逆光になるから、アイツのキラッキラなスマイルに後光が射しているように見える。
…ちくしょう、拝むぞ。
前を向くように、ピッピッと黒板を指さすと、アイツはニヤニヤしながらようやく前を向く。
俺は、欠伸の代わりに深くため息をついた。
最近、1日に1回はあの謎のやり取りをする羽目になっている。
おかげさまで目は覚めるけれど、疲労感と羞恥心でグッタリくるのだ。
気を取り直してノートを取ろうとすると、黒板消しを持った先生が、書こうとしていた場所の前で待ち構えていた。
先生、まだそこ消さないでね。
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