⑨-1

1/1
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

⑨-1

外はどんどん日が沈んで、夜の色がじわじわと空に染みていく頃。 俺は、蛍光灯がついた廊下をずんずんと足早に進んでいた。 司といた広場から、特別教室が入った特別棟を抜けて、教室棟に入る。 教室棟3階の端が俺たちの教室だ。 下校時間が過ぎたからか、電気がついてない教室がほとんどで、人の気配も少ない。 ぶっちゃけ、めちゃめちゃ怖いんですけど… ペタペタと足音が廊下に響く。 明るいには明るいけれど、真っ直ぐに続く誰もいない廊下は、いつもより長く感じた。 呪文唱えたら、鞄がコッチに飛んできてくれたらいいのになぁ… ワザとくだらないことを考えながら足を進めると、ようやく教室が見えてきた。 全員下校したのか、教室の電気はついていない。 早く電気をつけたくて、俺は教室の引き戸に駆け寄ると、ガラガラッと勢いよく戸を開けた。 しん、と静まり返った教室。 藍色の空と、黒く浮かび上がる机と椅子。 …と、なんだあれ? 窓際に真っ黒い塊が微動だにせず鎮座している。 誰だよ、教室にでっかい漬け物石もってきたの。 違う。あれは。 あれは…ヒト? 塊の正体が人だと気付いた俺は全身がゾッと総毛立つのを感じた。 叫び出したくても声が出ない。 なんだよアレ!どーすんのよオレ! パニックになりそうな頭を必死で押さえ込んで、 何か助けになるものがないか周りを見渡す。 そうだ…電気!スイッチ! 塊を刺激しないように、震える手で蛍光灯のスイッチに手をかける。 襲ってきたら全速力で逃げよう。 今なら自己新記録達成するレベルで早く走れるぞ、俺! 小さく息を吐くと、スイッチに触れる指に力を入れた。 ―パチッ 弾けるような音の後に、パッと教室中が明るくなる。 無意識に目をつぶっていた俺は、恐る恐る目を開けた。 窓際に突っ伏していたのは、昨日から俺の頭の中を占拠している、アイツだった。 「佐野…?」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!