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⑨-2
教室が明るくなっても全然動かない佐野に、俺は不安を覚える。
もしかして、死んでたり…なんかしちゃってない、よな?
昨日のことはいったん隅に置いておくとして、体調でも悪くなっていたら目も当てられない。
俺は突っ伏してこちらを見ない佐野に近付くと、佐野の背中に手を当てて身体を揺すりながら声をかけた。
「佐野…おい、大丈夫か?」
もぞもぞと身体を動かして、佐野がゆっくり頭を上げる。
だんだんと視線を上げていって、ついに様子を見ていた俺とバッチリ目が合うと、声にならない叫びを上げて佐野は突然飛び上がった。
ガタガタッと机が大きく鳴る音に、俺も釣られてびっくりする。
おいしいリアクション、ごっつぁんです。
「え…?なに?なんで陽太がここに…?え…?」
口元を手で覆い隠しながら、佐野はアワアワと動揺しているようだった。
いま、さり気なく名前呼びしませんでした?
一瞬浮かんだ疑問をスルーして、俺は話を進める。
「ビックリしたのはこっちだよ。体調悪いのか?」
俺からの問いかけに落ち着きを取り戻したのか、佐野は咳払いをひとつすると、
「いや、放課後にウトウトしながら課題やってたら、そのまま寝てた」
昨日あんまり寝られてなくて、とバツが悪そうに頬を掻いて言った。
確かに目の下にイケメンらしからぬクマがうっすら浮かんでいる。
昨日、と佐野の口から出た途端、夕暮れの図書室での出来事がぶわっとフラッシュバックした。
胸ぐらを掴まれてキスまがいのことをされるという、王道の少女漫画にしてはちょっとハードなシチュエーションをまざまざと思い出して、俺も釣られて顔が赤くなる。
ヤローが2人して赤面している状況、なかなかのカオスだな。
「それで」
すっかりいつもの調子を取り戻したらしい佐野の呼び掛けに、今度は俺の肩がビクッと跳ねる。
佐野が次に言うことが、何となく分かった。
「昨日の話、考えてくれた?」
顔はにこやかなのに、目がまったく笑っていない。
昨日見た佐野の真剣な眼差しと重なって、緊張した俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「俺は…」
次に続く言葉がなかなか出てこず、何と言っていいのか分からない。
昨日からずっと考えていた「?」で、頭の中が再び満たされる苦しさに俺は思わず両手をギュッと握りしめた。
俺は、どうしたらいいんだろう。
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