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はぁ… 「陽太、ため息」 隣で黙々と草むしりをしている長身の男に指摘される。 こいつ、谷町 司は中学からの同級生だ。 中学のときは剣道で全国制覇するも、高校入学をきっかけにさっぱり剣道を手放したと思えば、1人で「園芸同好会」を立ち上げた変わり者である。 その理由も、「花が好きだから」という、至ってシンプルなものだ。 帰宅部の俺は、こうしてときどき司の手伝いをしている。 「ため息ばっかりついてると、幸せ逃げるぞ」 「わーってるよ」 お節介ばかり焼いてくる司に、えいっと抜いたばかりの小さい雑草を投げつける。 喰らえ、雑草ボンバー。 俺の投げた雑草についた土を丁寧に払ってから、脇に置いてあるちりとりに入れる。 司は俺の顔をじっと見ると、 「…で、何があった?」 と、聞いた。 こういうときの司は鋭い。 何かあると、こうして俺の顔を見てはズバリと聞いてくる。 さながら、メンタリスト。 ただ、今回はさすがに相談しにくい。 クラスの人気者が、授業中に俺にニコニコ手を振ってくる…なんて言えない。 自意識過剰か、俺は。 俺が言い淀んでもごもごしていると、小さくため息をついて、土が付いたジャージの膝をパンパン叩きながら立ち上がった。 幸せ、逃げますよー。 「言いにくいなら無理には聞かないけど」 「陽太の役には立ちたいと思ってるから」 軍手を外して俺の髪をぐしゃっとかき混ぜると、ちりとりを持って焼却場へ歩いていった。 司は俺が自分から話さないときは、絶対に無理矢理聞いたりしない。 「ただ待つ」ことをしてくれる司の存在は、本当に有り難かった。 俺は立ち上がってぐっと背伸びをすると、司の後を追うために歩き始めた。 オレンジ色の夕日が、さっきより綺麗だった。
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