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③
はぁ…
「陽太、ため息」
隣で黙々と草むしりをしている長身の男に指摘される。
こいつ、谷町 司は中学からの同級生だ。
中学のときは剣道で全国制覇するも、高校入学をきっかけにさっぱり剣道を手放したと思えば、1人で「園芸同好会」を立ち上げた変わり者である。
その理由も、「花が好きだから」という、至ってシンプルなものだ。
帰宅部の俺は、こうしてときどき司の手伝いをしている。
「ため息ばっかりついてると、幸せ逃げるぞ」
「わーってるよ」
お節介ばかり焼いてくる司に、えいっと抜いたばかりの小さい雑草を投げつける。
喰らえ、雑草ボンバー。
俺の投げた雑草についた土を丁寧に払ってから、脇に置いてあるちりとりに入れる。
司は俺の顔をじっと見ると、
「…で、何があった?」
と、聞いた。
こういうときの司は鋭い。
何かあると、こうして俺の顔を見てはズバリと聞いてくる。
さながら、メンタリスト。
ただ、今回はさすがに相談しにくい。
クラスの人気者が、授業中に俺にニコニコ手を振ってくる…なんて言えない。
自意識過剰か、俺は。
俺が言い淀んでもごもごしていると、小さくため息をついて、土が付いたジャージの膝をパンパン叩きながら立ち上がった。
幸せ、逃げますよー。
「言いにくいなら無理には聞かないけど」
「陽太の役には立ちたいと思ってるから」
軍手を外して俺の髪をぐしゃっとかき混ぜると、ちりとりを持って焼却場へ歩いていった。
司は俺が自分から話さないときは、絶対に無理矢理聞いたりしない。
「ただ待つ」ことをしてくれる司の存在は、本当に有り難かった。
俺は立ち上がってぐっと背伸びをすると、司の後を追うために歩き始めた。
オレンジ色の夕日が、さっきより綺麗だった。
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