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⑤
午後の授業。
相変わらず、周りのヤツらの魂は夢の中へと召されている。
反対に俺は、昼間のことが気になって全然寝られなかった。
おかげさまで、今までの授業は最後までバッチリ聞いていたし、ノートも抜かりなく取れた。
受験期でもそうそうになかった快挙である。
正直なところ、自分でもなんでこんなにモヤモヤしているのか分かっていない。
そもそも、クラスの美男美女がカップルになって、羨ましすぎて禿げそう…くらいの話じゃないか。
よくある話。あるある。
羨ましいのは分かるが、落ち着け、俺。
無限に湧き出るモヤモヤを削り取るように、筆圧強め(当社比3倍)でゴリゴリとノートを取っていく。
途中で力の入り方が片寄ったからか、パキッと小気味よい音を立ててシャーペンの芯が折れた。
替芯、あったかな…
ごそごそと筆箱の中身を漁っていると、ふと俺の左側、つまり窓際の方から視線を感じた。
…佐野だ
チラと目だけを上げて、そちらを見る。
佐野は相変わらずにこやかにこちらを見ていた。
今日もキラキラスマイル全開かよ、ちくしょう
俺の視線が合ったからか、はたまたタイミングが重なったからか、いつものようにひらひらと手を振ってくる。
やれやれ、またかよ…
…と、リアクションを取ろうと思って、やめた。
これは、梶さんへのアピールだ。
佐野の視界に俺はいない。
俺を通り越して、梶さんへ手を振っているのだ。
俺じゃ、ない。
小さく手を振り続けている佐野から視線を外す。
そうだ、俺はシャーペンの替芯を探さなきゃいけないんだった。
目の前の筆箱から替芯のパッケージを探すことに集中する。
こんな時に限って、替芯はなかなか見つからなかった。
佐野が今どんな顔をしているのか、俺には分からない。
間の自意識過剰ヤローに邪魔されることなく、梶さんと愛の交流を深めているのかもしれない。
―もし、あの笑顔が俺に向けられていたら、俺はどうしていたんだろう
ようやく見つけたパッケージからシャーペンの芯を出して補充する。
―あの笑顔の先が、梶さんじゃなくて俺だったら、俺はどう思うんだろう
カチカチと新しい芯を出して、遅れていた部分のノートを取り始めた。
ゴリゴリとノートを取りながら俺は、心の隅でぐちゃぐちゃに丸まった何かに気付かないフリをした。
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