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⑦-1
―ガラガラッ
「ごめん!まだ時間セーフ?!」
勢いよく引き戸が開けられると、息を切らした佐野が図書室に入ってきた。
「え?あ、あぁ」
佐野の姿をぼんやり見ていたところに声をかけられて、俺はしどもどしながら返事を返した。
荒れた息を整えながら汗ばんだ額を手で拭っている姿ですら絵になるってどういうこと?
これがウワサの「映え」?
ワイシャツの襟をパタパタさせて涼を取りながら、佐野は俺のいる貸し出しブースのカウンターに鞄をドカッと置いた。
「まだやってない仕事ある?」
「まだ返却処理してない本があるから、それやって」
オッケー、と軽い調子で返事をしながら、佐野はブースの中を覗き込む。
ブースの中の机から、数冊積まれた本の山を見つけて取り出すと、これ懐かしいな、と本の表紙を俺に向けながら、いつものキラキラスマイルで言った。
本の中身は、わかったんだかこまってるんだか感情が忙しい女の子の話だ。
うちの学校、こんなのも置いてんの?
ためつすがめつしながら表紙のイラストをニコニコと眺めている佐野を見ながら、はたと気付く。
…あれ?
もしかして、変に意識してるの、俺だけ?
あまりにも「いつもどおり」すぎて、何だか拍子抜けする。
あれだけ気まずい思いをしながら、誰かさんに向けられた佐野の視線の数々をスルーし続けたこの1週間とは…?
心の中でこっそり涙しながら、職員室から鍵と一緒に持ってきた日誌を開く。
当の佐野は、梶さんの襲来によって、俺が放置していた返却処理を済ませると、本たちをこれまた楽しそうに元の棚へ戻しにいった。
――――――
静かな図書室に、カリカリと俺がシャーペンを走らせる音が響く。
図書委員たるもの読書量を増やせだの、文章力を鍛えろだのという、熱意とやる気に満ちた担当の先生お手製の日誌は書く項目がやたらと多い。
ふと視線を腕時計に移すと、すでに終了時間を過ぎていた。
やっべ、早く終わりにしないと。
最後の項目を半ば乱暴に終わらせて、日誌を閉じる。
そういえば、佐野はどこにいった…?
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