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⑦-2
佐野の姿を探そうと顔を上げると、目の前の長机に浅く腰を預けて、腕組みをした佐野がこちらをじっと見ていた。
日が延びたとは言え、17時近くの図書室の中は、だんだんと影の色が濃くなり、夕日のオレンジとのコントラストが強くなっていた。
オレンジと黒に染められた佐野の表情は、いつもの笑顔ではなく、真剣な表情で真っ直ぐに俺を見つめている。
俺が開け放った窓は、いつの間にか佐野がやってくれたのだろう、全て閉められていた。
図書室の空気の密度がグッと上がり、実際の距離以上に佐野が近くにいるようだった。
「あのさ」
徐に口を開いた佐野の声が図書室に響いて、俺はビクッと肩を震わせる。
「最近、なんで俺のこと、避けるの?」
唸るように低い声で、佐野は言った。
俺の心臓がズキズキ痛むのは、少なからず心当たりがあるからだ。
「別に、避けてないけど」
胸の痛みに気付かれないように、素っ気なく答える。
もちろん、嘘だ。
これ以上、佐野から追求されたくなくて、俺はわざと話を変えた。
「ただ、俺を挟んでイチャイチャするのはやめてくれよな?
目の前でいちゃつかれると、腹いっぱいで授業に集中できないんだよね」
あははと乾いた笑いが、寒い。
無理矢理貼り付けたような俺の作り笑いにも表情を変えず、佐野は間髪入れずに言った。
「梶さんじゃないよ」
さっき本人から聞いただろ、と少しイライラした口調で続ける。
そういえば、梶さんとは入れ違いだったっけ。
梶さんと同じく、佐野も迷惑していたのだろうか?
もしそうだとしても、疑問は残る。
「じゃあ一体誰とイチャイチャしてたんだよ。あの辺にお前の好きな人でもいんの?」
考えても考えても一向に答えの出ない問を、佐野本人にぶつける。
もうほとんどやけくそだ。
「…知りたい?」
ガタッと音がしたと思うと、佐野が目の前にいた。
いきなり詰められた距離に目を丸くしていると、胸ぐらを掴まれてグイッと佐野の方へ引き寄せられる。
視界が佐野の顔でいっぱいになり、思わず目をつぶると、俺の唇に柔らかいものが当たった。
いや、正確には唇のギリギリ端だ。
―ファーストキスの配慮まで完璧とか、どんだけ手馴れてるんだよ…
この状況を理解するのに頭の処理が追いついていないのか、余計なことを考えてしまう。
一瞬の間をおいて、佐野の唇は離れていった。
そして、至近距離のまま、佐野は低く小さい声で囁くように言った。
「それ、お前だから」
「陽太のことが、ずっと好きだった」
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