第二章 穏やかなる海は与えられないのは当然なりや

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「かの神様は九頭龍の首の内の一本です。お控えなさい!」 「え……? え? え?」 万象は拱手に構え、龍の首の前に跪く。龍は万象に問いかけた。 「川の掃除をしたのは貴様か」 「ええ、外つ国の神様の力も借りさせて頂きました」 「久々に我が体が清められたのだ。感謝をしよう。当分は暴れずに眠りに就こうと思う」 「これは何より」 「人の手で我が体に穢れが溜まりし時はその限りではないがな」 「出来ればご遠慮くださいませ」 「フン、人風情が偉そうになったものだ。それとだ、近頃海で何が起こっておるのだ?」 「海…… と、言いますと」 「我の体は遊佐峠にある湧き水を源流とし、北の海(日本海)へと流れ出る。ところがここ最近は海が荒れ果て、流れ出た水も逆流する始末。我としてはそのまま氾濫させてこの越の地を水没させても良いのだがな…… 人に咎がない以上は食い止めてやっている。それも面倒くさくなってきたからどうにかしてもらおう」 それだけ言って龍は姿を消した。その刹那に万象はやれやれと言った感じで溜息を吐く。 「逆流する海をどうにかしろと言われましてもな……」 「この川、最終地点は三国村だぞ。最近海が荒れていると聞いていたが…… 九頭龍にまで影響しているとは」 「海が荒れているのは海神(わだつみ)様のご気分次第です。我々人がどうにかする問題ではありません。九頭龍様も無茶を言うものです」 多少、神的な横着な手を使ったが川作務を終えた。麓の村人達はこれまでにない清涼なる川となった九頭龍川を見て暦法師達に感謝するのであった。
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