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序章一
国風文化の風が吹き荒れ貴族たちが我が世の春を謳歌する平安の世。この世においてこれを嘲笑う男がいた。
この男の名は西京院万象…… 京の都にてヤミ陰陽師をしている最強の陰陽師である。
元々は遣唐使であったのだが、菅原道真公の進言から遣唐使が廃止された事により、遥か遠くの唐の国は長安の都にて風来坊となってしまった。これをよしとした万象は世界を旅して回る事にした。
旅を終え、旅先の森羅万象術を修めた万象は、日本は京の都に舞い降り、ヤミ陰陽師として日々、莫迦梵梵の貴族や京の都に災いを成す悪鬼悪霊相手にその力を振るうのであった。
今日も、莫迦梵梵の貴族相手に下らない一仕事を終えた万象は自宅の寝殿母屋にて晩餉をとっていた。今日の万象の自宅の庭は春爛漫の小春日和にも関わらずに向日葵の花が咲き乱れていた。当然であるが、平安時代の当時、向日葵は日本に入っていない。向日葵はその名の通り日に向かって咲く花である、日が差していない間はそっぽを向くように南に向いて咲くのだ。
「夜の向日葵もまた風流かな」
万象は夜の向日葵を肴にして食前酒を飲んでいた。そこに袙を纏った童女がおひつを持って万象が待つ母屋へとやってくる。
この童女、万象が台所より米を持ってこさせる為だけの式紙である。
「おや、へしこはどうしましたか」
へしこ。鯖などの青魚に塩を振り、更にぬか漬けにした若狭地方に古くから伝わる郷土料理である。
童女は申し訳なさそうに俯いた。そして、嫌味たらしく口を開いた。
「万象様が毎日お食べになるから、切らしております」
「あれれな。そんなに毎日食べておるかの?」
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