第一章 飯の降らぬ山に降りるは悲哀の翼か

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「あ、あれは……」 「姑獲鳥です」 姑獲鳥。唐国から伝わる女と鳥の姿が合わさった姿の妖怪である。死んだ妊婦が子を産めなかった無念から大鴉とよく似た姿となる。長い黒髪は更に伸び黒羽根と化し、上半身は裸で、腹は腸が飛び出したように破れており赤子が飛び出た跡が痛々しく残り、足は火食鳥のような太い枝を思わせる鳥の足となっている。 「噂には聞いたことがある。子を産めなかった母親の無念があんな姿にしちまったんだろ?」 「ええ、だから祓う時は心が痛みます」 でも、祓わねばならないのが妖怪から人を守る陰陽師の役目。万象は印を切り、愛用する弓矢を創造した。 「エイウズ!」 エイウズ。ドルイドにおける「弓矢」を意味する。ドルイドはこの術を使うと無から弓矢を出すことが出来る。万象はこの術をドルイドから完全に修めているのである。 姑獲鳥が姑獲鳥たる事情を知らない討伐隊は折角の屯食を掠め取られたことで激昂していた。ただ食事を盗られて悔しいだけである。 「この鳥野郎め! 俺の飯を返せ!」 太刀を抜いた討伐隊が太刀を抜き上段の構えで姑獲鳥に斬りかかる。姑獲鳥はあっさりとその太刀を受け止める。それを見て万象が叫んだ。 「気をつけなさい! 姑獲鳥は女とは言え妖怪! 生半可な腕では命を落とします!」 その通りだった。太刀を受け止めた姑獲鳥はあっさりと討伐隊を地面に押し倒す。姑獲鳥は鋸のように尖った牙を見せながら舌なめずりをした。 「討伐隊とは言え、妖怪の前では案山子も同然ですか。仕方ないです」 万象は弓をギリギリと引いた、その刹那、恵達は万象よりも早く弓を放った。討伐隊を襲わんとしていた姑獲鳥の額に矢が生える。姑獲鳥はその一撃で絶命し天を仰ぐように倒れ込んだ。
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