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それぞれの戦い
モツイット中佐がゆっくりと歩き出した。右手に握られた剣は細めだが、かなり長い。つまり、奴の間合いはその分広いと言う事だ。
他の兵士達は動く気配が無い。モツイット中佐の待機命令か?自分一人で俺達を片付ける自信があるのか。
俺はモツイット中佐の前に立ちはだかった
。
「そこをどけ小僧。私が用があるのは金髪の女だ」
モツイットが煩わしそうな声を出す。俺はラークシャサを両手で握る。
「ハーガット軍は全て俺の敵だ!無事に帰れると思うなよ!」
俺は叫びながら奴との間合を測っていた。
そしてそれは一瞬だった。モツイットが腰を低くかがめ長剣を一閃する。
俺は奴との距離を十分過ぎる程取っていた。そのつもりだった。だが、モツイットの剣先は俺の胸を切り裂いた。
「······っ!!」
俺は胸の圧迫で声が出なかった。心臓を守る為の胸当ては真っ二つに割れた。なんて剣速だ!
反射的に胸を反らさなかったら、確実にやられていた。モツイットは更に一歩踏み込み
、高速の斬撃を繰り出してきた。
俺はそれを必死で避ける。モツイットは死の一撃を次々と振るって来る。
「キントさん!」
マコムが叫んだ。俺に加勢しようと近付くのを俺は手で制した。
「マコムは鼻が潰れた大声男を頼む!レファンヌに近づけさせるな!そいつは巨漢の割に動きが俊敏だ。気をつけろ!」
俺は息を切らせながら叫んだ。レファンヌ
。あの金髪の悪魔を死なせては駄目だ。俺はこの時、強くそう思った。
レファンヌのあの力。あの力を正しく使えば、ハーガット軍の大きな脅威になる。最も
、あの女が力を正しく使うかどうかまでは考えていなかったけど。
「······分かりました!」
レファンヌの百倍はある素直さでマコムは答えてくれた。マコムは小柄な身体に大き過ぎる戦斧を両手で握り、シャウトへ向かって行った。
「ぬううっ!赤毛の女!いや小娘!いやいや
少女よ!邪魔立てするなら蹴散らすぞぉ!」
大声馬鹿男の声が響く中、俺はモツイットの間合いを身体で覚えていた。俺は全神経を集中させ、反撃の機会を待った。
そしてモツイットの突きをかわした時、俺は奴に向かって突っ込んで行く。
「······斬れる!」
俺は必殺の一撃をモツイットに振るう。だが、モツイットは測った様に一歩後ろに後退した。
「何っ!?」
俺の剣は空を切った。そしてモツイットは無防備になった俺の左足に長剣を斬りつける
。
「ぐわあっ!」
俺は左足の膝から下を切断され、顔から地面に倒れた。モツイットは息が乱れた様子も無く声を発する。
「小僧。私の間合いを掴んだと思ったか。だが、逆の事を私にやられたな」
く、くそ!間合いを測られたのは俺の方だったのか!左足に激しい痛みを感じながら、俺に敗北感が重くのしかかる。
「······さて。金髪の女よ。先程から魔法を一切使わぬな。何故だ?魔力が尽きているのか
。それもと使えぬ理由でもあるのか?」
モツイットは俺に一瞥もくれずレファンヌに近付く。ま、まずい!レファンヌは夜に呪文を使えない。
いくらレファンヌが接近戦に長けていても
、モツイット相手じゃ敵わない!
「どうでもいい事をどうでもいい相手に喋る気は無いわ。さっさとかかって来たら?それとも、私に怖気づいているの?」
俺の心配を他所に、レファンヌは好戦的な言葉を吐く。だ、だから!敵をあんまり挑発するなよ!
「では私の仕事を再開しよう」
モツイットはそう言うと長剣をレファンヌに突き出した。レファンヌは銀の杖でそれを受け流す。
事態は俺の予想通りになってしまった。あのレファンヌが防戦一方で、一切反撃が出来ない状況に陥った。
俺は必死に這いずり、切断された自分の左足を拾いに行く。その時、マコムの背中が目に映った。
「ぬうううっ!何故だ?なんで当たらない!
?うりゃっ!当たれ!この!あれ?何で?何で当たらないの?」
シャウトが絶叫しながら大剣をマコムに振り浴びせる。マコムは信じられない俊敏さでそれを全て避ける。
マ、マコム。この娘なんて動きが早いんだ!?
「うりゃっ!また当たんないや。ぬうっ!しかし少女よ!私の攻撃に避けるのが精一杯の様だな!ふはははっ!」
シャウトの攻撃は早く鋭い。だが、俺の目にはマコムが機会を覗っている様に見えた。
「はあっ!」
マコムはシャウトの大剣を戦斧で受け流し
、戦斧の柄の部分をシャウトの鼻に叩きつけた。
「ぶっはあっ!?え?ま、また鼻ぁっ!?」
大男は背中から倒れた。す、凄いぞマコム
!あの娘、なんて強さだ!
「ぢぎじょぉう!もう許さんぞっ!者共!こ奴らをやってじまえ!」
半泣きのシャウトが号令を下すと、五十名近くの兵士達が一斉に動き出した。ま、まずいぞ!
マコムは迷いなくその兵士達に向かって行った。ちょ、ちょっと待てマコム!幾ら何でもそれは無茶だろ!
ドンッ。
俺の耳に何かの音が聞こえた。その音がした方角を見ると、俺は自分の目を疑った。レファンヌが地に倒れ、その喉元にモツイットの剣が迫っていた。
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