空からの来訪者

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空からの来訪者

 全身黒い甲冑のモツイットは、倒れたレファンヌをまたぐ様に立ち、彼女の喉元に鋒を当てる。 「······さて金髪の女よ。お前がロッドメン一族だと言う事は聞いている。一族の情報を話して貰うぞ。さもなくばここで殺す。好きな方を選べ」  くそっ!早く繋がれよ!俺は切断された左足を拾い膝に着けたが、直ぐには繋がらなかった。  マコムは一人で五十人の兵士相手に奮戦していた。マコムは素早く移動し街の壁や井戸、家までも障害物として利用し、兵士達に包囲させなかった。  そして大き過ぎる戦斧を完璧に使いこなし 、兵士達を確実に仕留めて行く。駄目だ!マコムにはとてもじゃないが頼れない。 「身勝手な二者択一ね。私も同じ事を言ってあげるわ。無様な撤退か。無様な敗北か。好きな方を選ばせてあげるわ」  レファンヌが不敵に笑い言い放った。駄目だ!もう少しだけ時間をくれ!もう少しだけでいいから! 「······では死ね」  モツイットが長剣を振り上げ、レファンヌの喉に振り下ろそうとした。 「レファンヌ!!」  俺が叫んだ瞬間、レファンヌは右足を振り上げた。その凶器ブーツがレファンヌをまたいでいたモツイットの股間を直撃した。  だが、股間も甲冑に覆われていたモツイットにダメージは無いと思われた。 「最後の足掻きか女」 「あんたの最期よ」  モツイットとレファンヌの言葉が交錯した瞬間、モツイットの股間で爆発が発生した。 な、何で!?レファンヌは呪文が使えない筈じゃ! 「がっ?があああっ!?」  爆風で吹っ飛び、地面に叩きつけられたモツイットは苦痛の声を上げる。奴は股間を中心に、下半身に重い裂傷を負っていた。 「私のこのブーツは魔法具よ。道具として使うと爆裂の呪文と同じ効果が発生する。その名も「炸裂のブーツ」残念だったわね」  至近で爆風を受け、レファンヌも無傷では無かった。白い法衣は所々切れ、顔からも血を流していた。  な、なんて女だ!最初からこれを狙っていたのか?自分も傷つく事になんの躊躇もしないなんて! 「あ、あれぇ!?モツイット中佐!や、やられちゃったの!?」  シャウトが馬鹿デカイ声を出しオロオロし始めた。その頃、マコムは兵士達の半数を戦闘不能に陥らせた。  モツイット中佐とシャウト少尉の敗北に、半数の兵士達は動揺し動きが止まった。こ、 これはもしかして勝てるのか?  その時、夜空から何かが落ちてきた。その何かは風を纏っていた。俺の目の前に降り立ったそれは、周囲に風を散らした。  俺は舞い上がった砂に目を細めその者を見た。レファンヌと同じ金髪だ。金髪の長い髪をした男だ。  年齢は五十代前後。身長は俺より少し高い位だろうか。細見の身体に黒いマントを羽織っている。顔も細く健康的には見えない。  細い身体と同様に両目も細かった。だが、 その両目は冷たく、恐ろしい程冷めている様に見えた。 「······ハ、ハーガット様!!何故、こちらに ?」  苦痛に耐えながら、モツイット中佐が絞り出す様に声を上げた。俺の耳は一瞬その意味を理解出来なかった。  ······この黒いマントの男がハーガットだって?コイツが。全ての元凶が俺の目の前に立っている? 「······ハーガット!!」  ようやく左足が繋がった俺は、頭が真っ白になっていた。だが、勝手に身体が動いた。俺は絶叫しながら片手だけの大振りを、ハーガットに振り下ろした。  だが、俺の一撃は見えない壁に弾かれた。 態勢を崩した俺は情なく尻を地面に着けた。 ハーガットは一切俺を見ずに、その視線をレファンヌに向けていた。 「······ふむ。我が軍を三度退けた女とはお前か。なる程。その白い法衣。我が宿敵ロッドメン一族の者か」  ハーガットが口を開いた。その声は無機質で、人の血が通った声には聞こえなかった。 「今しがた四度になる所よ。顔色の悪いおじさん。アンタがこいつ等の親玉って訳?」  レファンヌがハーガットに向かって悪い口を開く。ハ、ハーガット本人に向き合っても この態度。どれだけ神経が太いんだ? 「······ふむ。その法衣の胸の紋章。それはロッドメン一族の聖女に与えられる唯一無二の 紋章だな。一族の聖女がかような戦場に何故いるのだ?」  ハーガットがレファンヌに質問する。ロッドメン一族の聖女?紋章?い、一体何の事だ ? 「······ロッドメン一族の事情に詳しいようね 。あんた。あの下らない一族のファンなのかしら?」  レファンヌは鋭い表情に変わり、ハーガットを睨みつけた。 「無論だ。ロッドメン一族は我が軍を脅かす 希少な勢力だ。彼等との決戦の日も近い。そなたは何故一族と行動を共にしない?」  ハーガットは僅かに首を傾けた。俺にはそれが、素直な疑問を問いかけている様に見えた。 「一族のファンには申し訳ないけど、私はあのくそったれ一族とは別の場所に立っているの。今言った場所って言葉は、位置関係の意味じゃないわよ?理解出来てるかしら?」  口汚い言葉を織り交ぜ、レファンヌは相手を挑発する。挑発された相手は表情を少しも変えない。 「ふむ。忙しい政務の合間を縫って来た甲斐があったな。宿敵一族の聖女。決戦前の人質としてこれ程相応しい相手も居ないだろう」  ハーガットは言い終えると右手に持った杖をかざした。狂気王と呼ばれる男のその力を 、俺は目の当たりにする事になるのだった。  
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