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三匹の蛇
ハーガットが杖をかざした瞬間、地面の中から木の根が飛び出して来た。それは見当もつかない程の数だ。
太さも様々な木の根が意思を持ったかの様にレファンヌに襲いかかる。レファンヌは素早くそれをかわすが、彼女の死角である後方から根が迫る。
「レ、レファンヌ!」
俺の叫び声と同時に爆発が起きた。レファンヌは身体を捻り炸裂のブーツを使用した。太い根を吹き飛ばし、根の残骸が周囲に飛び散る。
「古代呪文「樹木の縄」ね。顔もやる事も古臭い奴ね」
レファンヌは頰についた根の破片を払った
。だが無限とも思わせる木の根が再びレファンヌを包囲しようとしていた。
「くそっ!」
俺はレファンヌの元に駆けつけるより、目の前のハーガットに斬りかかった。術者を倒せば、あの木の根も消える筈だ!
だが、俺の剣はハーガットの目の前の現れた根に阻まれた。先程は見えない壁。今度は木の根。
きっとどちらも魔法だ。そして魔法は同時に二つ使えないんだ。今!今ここでハーガットを倒せば全てが終わる!
「うおおおっ!!」
俺は持てる力を振り絞りハーガットに剣を振るった。だが、俺の斬撃は全て根の壁に阻まれる。
しかもハーガットは俺を一度も見ずに、その視線をレファンヌから動かさなかった。
「キントさん!」
五十人の兵士の半数を倒し、半数を戦意喪失させたマコムが加勢に来てくれた。
「はあっ!」
マコムが気合の声と共に戦斧を振り下ろす
。俺より遥かに重そうな一撃は太い根を半ば切断するが、次々と新たな根が生え、ハーガットを守る。
「レ、レファンヌさん!?」
マコムの驚いた声を聞き、俺はレファンヌを見た。レファンヌは木の根の上に立ち、そこから跳躍した。
そして次々と木の根に飛び移り、ハーガットに接近する。あ、あの女、なんてバランス感覚をしているんだ!?
ハーガットを守るように奴の周囲に根が密集する。レファンヌは太い枝から跳躍し、その密集した根にブーツを叩きつけた。
炸裂のブーツは威力を発揮し、爆発が起きた。爆風がハーガットとレファンヌの姿を隠す。
「レ、レファンヌ!!」
俺は叫びながら木の根を払い、レファンヌの側に向かおうとした。その俺の視線の先に
、粉塵の隙間から銀の杖が見えた。
視界が遮られている中、レファンヌはハーガットに杖の刃物を突き立てようとした。ハーガットは顔を捻りそれを避けようとする。
「······見事な動きだ」
レファンヌの杖の刃物は、ハーガットの頬を傷付けた。ハーガットの頬から赤い血が流れる。
「感心している場合なの?」
レファンヌが間髪入れず第二撃を放とうとした瞬間、レファンヌの足元をから細い根が飛び出して来た。
「チッ!!」
細い根はレファンヌの身体を拘束して行く
。ま、まずいぞ!レファンヌが捕まった!
「······ロッドメン一族の聖女か。彼等との決戦を前にして、素晴らしい人質を得られた」
ハーガットは至近でレファンヌの顔を覗いた。覗かれた方は憤怒の表情を見せる。
「アンタに玩具にされるくらいなら喜んで死を選ぶわ」
「自害はさせんぞ聖女」
細い枝がレファンヌの首に巻き付いた。呼吸が出来ずレファンヌは苦しそうに口を開く
。
「くそっ!レファンヌを離せハーガット!」
俺は必死に剣を振るうが、次々と生え出てくる根はレファンヌとの距離を開かせた。
······なんて。なんて無力なんだよ俺は。何がハーガットを倒すだ。目の前の樹木にすら歯が立たないじゃないか!
俺は情なさから泣きそうになった。その時
、ラークシャサの刀身に枝が巻き付いた。俺はこの呪われた剣を改めて見つめる。
「······ラークシャサ。お前は神喰いの剣って呼ばれているだろう?俺を喰ってくれても構わない!俺に力を貸してくれよ!!」
俺は半ば自暴自棄になっていたのかも知れなかった。自分の未熟さを棚に上げて剣に泣きつくなんて、お笑いぐさもいい所だ。
だが、ラークシャサは俺の声に応えてくれた。俺の想像を絶する形で。
最初に俺は剣を握る右手に痛みを感じた。俺は顔をしかめ手首を見ると、三匹の小さい蛇が俺の肉をかじっていた。
「······何だよこれ?とこから蛇が」
俺の言葉は途中で途切れた。蛇の胴体の根元を見たからだ。その三匹の蛇は、ラークシャサの柄に空いた三つの穴から這い出ていた
。
三匹の蛇が勢いよく俺の肉を貪り、飲み込む。その瞬間、ラークシャサの黒い刀身は紅い光に包まれる。
《血肉の代償に力をくれてやる》
······俺の頭の中に、何かが聞こえた。俺は無意識に剣を振り上げる。
「うおおおっ!!」
俺はラークシャサを振り切った。その瞬間
、轟音と共に俺の前にあった樹木が全て吹き飛んで行った。
「······キ、キントさん?」
マコムの声が聞こえたような気がしたが、俺は視線を前から逸らさなかった。俺の目の前には、堅牢な根の盾を全て失ったハーガットが立っていた。
ハーガットはこちらを見ていた。狂気王は初めてその視界に俺の姿を映していた。
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