出立

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 俺達はハーガットの居城を目指して街を出た。半狂乱の町長が引き止めに来たが、レファンヌは「もうこの街は安全よ」と一言残し颯爽と立ち去った。 「なあレファンヌ。なんで街が安全って言い切れるんだ?」  街を出て程なくして、俺達は行路を歩いていた。俺は背筋をピンと伸ばし、とても良い姿勢で歩くレファンヌに質問する。 「ハーガットは戦力を分散する愚を犯すような奴じゃないわ。ロッドメン一族との決戦を前に、全兵力を揃えている最中よ」  レファンヌは断言した。なる程。田舎町に派兵する余裕は狂気王にも無いと言う事か。 「あの。レファンヌさん。ハーガットの居城をご存知なんですか?」  マコムが後ろを気にしながら質問する。俺達三人の後ろには、距離を置きながら勇者アークレイと魔王メルサルがいた。  最も。メルサルはアークレイを嫌い、更にアークレイから距離を取っていたが。 「ハーガットは国を乗っ取り、それが崩壊するとまた別の国に侵攻するわ。この国の隣。今正に崩壊途中の王都が奴の居場所よ」  レファンヌの返答に、俺は頭の中で頼りない地図を思い描いた。隣国の王都って、ここから歩いてどれ位かかるんだ?  そ、そうだ。レファンヌの風の呪文で移動したらどうだろう? 「駄目よ。行路を歩かないと見つけにくくなるわ」  見つけにくい?どう言う事だ?俺が再度質問しようとすると、目の前に獣のような姿をした者が二体現れた。  それは魔物だった。熊のような身体を持ち 、頭部は亀の頭のような形をしていた。 「銀貨級魔物。亀頭獣ね。キント。さっさと片付けなさい」  レファンヌは腰に手を当てながら偉そうに物言う。お前が呪文で遠距離攻撃してもいいだろうに。 「ハーガットを倒すってご立派な事を言ったのは誰かしら?銀貨級すら倒せないようじゃ話にもならないわよ」  俺はレファンヌにハーガットを倒すと宣言した。彼女の言葉は、まるで俺の決意を試すかのようだった。 「分かってるよ!マコム!左の奴を頼む!俺は右をやる!」 「はいキントさん!」  知り合って間もないが、マコムは人格も戦場での力量も信用するに足る存在だった。俺はラークシャサを鞘から抜き、亀頭獣に斬りかかる。 「キュアァッ!!」  亀頭獣は俺の剣を頭に受け奇声を上げた。毛一つ無いシワだらけの頭部は無傷だった。 くそっ。なんて硬い頭だ!  亀頭獣は反撃に俺の胸に鋭い爪を立てようとする。俺はラークシャサを盾にしてそれを防いだ。  頭が駄目なら身体を狙う!俺は不死の身体を生かし、ダメージを恐れず突っ込む。 「うおおっ!」  俺は姿勢を低くし亀頭獣の腹を狙った。敵の爪が俺の腕を裂いたが、その代償に俺は亀頭獣の脇腹を斬った。 「キャシャアッ!?」  腹部の傷が深いのか、亀頭獣はよろめいた 。俺はその機会を逃さず、鋒を魔物の心臓に突き刺した。 「捨て身の攻撃一辺倒。キント。あんた不死の身体に頼りすぎよ」  レファンヌは魔物を倒した俺の戦い方を手厳しく評した。そ、そんな事言ったってしょうがないだろ。  未熟な俺には、この戦い方しかないんだ。 一方、マコムは戦斧を亀頭獣の肩に叩き込み沈黙させた。  俺と違ってマコムは無傷だ。本当にすごいなマコムは。二体の魔物は死体が炭のように変わり、風に吹かれいった。  死体があった場所には、それぞれ銀貨八枚が残されていた。魔物は強さによって三つに大別されている。  強い順に銅貨級。銀貨級。金貨級。バタフシャーン一族と言う者達が貨幣を触媒に魔物を造り出し売っているらしい。  バタフシャーン一族から魔物を主に買っているのは魔族の国々だ。理由は魔族の方が人間より人口が少ないので、それを補う為らしい。  魔族達は、自国の国境周辺に魔物を配置する事が多いが、今俺達が遭遇した様に人間の国々に入り込んで来る魔物も存在する。  少数だが、魔物狩りを専門に生計を立てている冒険者もいる。だが、危険が余りに大きいので、相当に腕に自信が無いと不可能だ。  路銀は幾らあっても邪魔では無いので、俺達は銀貨十六枚を回収した。その時、雲が少なく良く晴れた空に移動する黒い点が見えた。 「······来たわね。カミング」  レファンヌが短く呟いた。黒い点はこちらに近づくにつれ人影になり、俺達の前に降りてきた。  レファンヌと同じ白い法衣を纏った者は微笑んでいた。それは、長髪の優男カミングだった。    
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