優男の再訪

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優男の再訪

 カミングは細い身体を軽快に動かし、俺達に近づいて来た。チラリとマコムを見ると 、赤い瞳を大きく見開きカミングを見ていた 。  魔王メルサルの美貌には一歩及ばないかもしれないが、カミングも男前だ。なんとなくマコムの好みが分かってきたぞ。 「やあレファンヌ。キント君。元気だった? おや?その赤毛のお嬢さんは······」  カミングの陽気な挨拶は途中で中断された 。レファンヌに胸ぐらを掴まれたからだ。 「カミング。あんたね。ハーガット軍に私達の情報を流したのは」  レファンヌの鋭い目つきと声には抗しがたい迫力があった。カミングは脂汗を流している。 「どう言う事だよレファンヌ?」  俺は最もな疑問を金髪の聖女に問いかけた 。 「この優男がハーガット軍に知らせたのよ。私が夜に魔法が使えない事。連中を何度も撃退した私達があの街に滞在していた事も」  カ、カミングが?じゃあ、奴等が夜を選んで街を襲撃したのは偶然じゃなかったのか?ハーガット軍の死霊は太陽の下では動けない。  曇り空か日没以降でないと戦力にならないから、夜襲に関して俺は特段不審に思っていなかった。俺は急に腹立たしくなる。 「カミング!どうしてそんな事をしたんだよ !俺達死にそうになったんたぞ!」 「へ、下手な言い訳は無駄みたいだね。ごめんよレファンヌ。キント君。どうしてもレファンヌにあの街を出て欲しかったんだ」  カミングが弱々しく笑い、両手を合わせ俺達に謝罪した。それにしてもどう言う理由でそんな事をしたんだよ。 「レファンヌ。賢明な君なら理由は分かるだろう?」  カミングの表情は直ぐに普通に戻り、自分の胸を掴み続ける相手に質問する。  「私をロッドメン一族の戦いに参加させる為ね」  レファンヌはカミングの胸から手を乱暴に離し、不愉快そうに言い捨てた。訳が分からない様子の俺とマコムに、彼女は説明する。 「私はロッドメン一族の聖女候補だったの。けど、今は一族から追放状態よ。一族の長老共は今回のハーガットと一族の戦いに私を参加させ、手柄を立てさせたいのよ」 「その通り。その手柄を持ってレファンヌは一族に復帰し、めでたく聖女に任命される。 そうすれば、憎まれ役の僕も報われるよ」  カミングはそれは嬉しそうに話し始めた。口八丁手八丁でハーガット軍に街を攻める兵力を調整させたと言う。  ハーガット本人が街に来たのは計算外だったが、ロッドメン一族の長老が派遣した勇者アークレイと魔王メルサルが駆けつける事も計算していたらしい。  な、なんか釈然としないな。結局一族の勝手が優先され、俺達は利用された感じだ。 「一族の主力は十法将ね」  レファンヌの言葉に、カミングは笑みを返す。十法将とは、ロッドメン一族の中でも最高実力者に与えられる称号らしい。  その十人の魔法使い達がハーガットの首を狙っている。狂気王を倒せば、ロッドメン一族の最高位につけるからだ。 「十法将達は各自冒険者を雇い、まとまって行動している。緒戦でハーガット軍最大の要塞を落としたよ」  カミングはロッドメン一族の動きを説明する。十法将以外にも、一族で戦える者は総出で参戦しているらしい。  要塞を落とした後もロッドメン一族はハーガット軍を蹴散らし、連戦連勝のようだ。 「一族の皆がハーガットの王都に辿り着くのも時間の問題だね。以外と狂気王は大した事が無い相手かもしれないよ」  カミングの言葉に、俺は何かすっきりとしない思いが心に残った。あのハーガットがそんなに簡単に倒せる相手なのか?  それとも、それを成せる程ロッドメン一族 は凄いのか?確かにレファンヌを見ると納得出来ないでもないが······ 「過信と油断は足元をすくい、己の身を破滅させるわよ。せいぜい気をつける事ね」  レファンヌの何か予言めいたこの言葉に、俺は目が覚めた気分だった。そうだ。ロッドメン一族がどう動こうが関係ない。  俺達は俺達でハーガットを倒すために行動すればいいんだ。 「聖女の助言を一族の皆に伝えておくよ。レファンヌ。君は一族の希望だ。必ず生き残って欲しい」  カミングは静かな口調でそう言った。それは、俺が初めて見る優男の真面目な表情だった。  カミングはマコム、そして後ろにいたアークレイとメルサルに挨拶を済ませ、風の呪文で飛び去って行った。  そうか。レファンヌが移動に呪文では無く 徒歩を選んだのは、カミングが現れる事を予測していたからか。 「レファンヌ。俺達も風の呪文でハーガットの王都に飛ぶんだろう?」  俺は威勢良く聖女候補に質問した。 「飛ばないわよ。私達は歩いて行くわ」  レファンヌはあっさりと否定した。な、なんでだよ?飛べるのになんで時間がかかる方を選ぶんだ? 「一族の連中の思惑に乗せられるなんて真っ平御免よ。このまま行路を行くわよ」  レファンヌはそう言うと、長い足を規則正しく動かし歩き始めた。俺は呆れて彼女の背中を眺めながら、ある事を感じていた。  ······俺。この女の傍若無人振りに少し慣れて来ていないだろうか?俺はとっさに頭を降った。  こんな悪魔じみた性格に慣れるなんて駄目だ。何を考えていたんだ俺は。俺はマコムと頷き合い、レファンヌの後を追いかけた。  
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