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野営
街を出てから三日が過ぎた。俺達は行路沿いの道を進み、ハーガットの王都を目指している。
けど、この調子じゃいつ王都に着くのか見当もつかない。その間にハーガットとロッドメン一族の戦いが始まってしまうのでは無いのだろうか?
俺の心配を嘲笑うかの様に、今日も日が暮れて行く。俺達は小さい森に入り、俺とマコムは夜営の準備をする。折り畳み式の簡易テントを張り、火を起こし鉄鍋で水を沸かす。
「キントさん。テントの設営上手になりましたね」
マコムが鉄鍋に調味料らしき粉と乾燥野菜を入れながら俺に微笑んだ。このかさばって重い旅道具一式を、殆どこの赤毛の少女が移動中背負っている。
この小柄な身体のどこにそんな力があるのか。俺は改めてマコムの一族の底知れぬ能力に脱帽する。
「また野菜スープか。肉も入れたい所だな」
移動中は距離を取り離れている癖に、食事時には臆面もなくやって来るアークレイに、俺は不愉快な表情を隠さなかった。
「では貴様が得意の剣で獣でも狩ってくれば良いだろう。粗野な貴様にはお似合いの仕事だ」
メルサルは冷たい口調で不良勇者を嗜める
。この美貌の魔王は、マコムが熱心に食事に誘うのでやって来る。
「メルサル。俺の剣はもっとスケールの大きい事に使われるべきなんだ。何故なら俺自身が巨大なスケールそのものだからな」
訳の分からない事を言いながら、アークレイは勝手に器にスープをよそう。
「アークレイにメルサル。アンタ達、糞ジジイにどんな弱みを握られたの?」
長い足を組みながら、マコムの差し出したスープを飲むレファンヌは勇者と魔王に質問する。
「失礼だな金髪のお嬢さん。俺は知人である長老に頼まれたから善意で君の護衛を引き受けたのさ。全く自分のお人好しさに呆れるがな」
スープを一気に飲み干し、アークレイは豪快に笑った。
「教えてやろう。金髪の聖女。そこの不逞者は王族の妻に手を出したのだ。激怒した国王をなだめたのが長老と言う訳だ」
レファンヌとマコムの冷たい視線を浴びながら、不逞勇者は微動だにせず器にスープを
追加する。
「メ、メルサルさんはどうしてレファンヌさんの護衛を引き受けたのですか?」
マコムが遠慮がちにメルサルに問いかける
。美貌の魔王は深いため息をつく。
「私の国で内紛が起きた時、長老が尽力してくれた。その借りを返す為だ」
メルサルはそれ以上語ろうとしなかった。勇者と魔王を動かすロッドメン一族の長老とは、一体どんな人物なのだろう。
俺が拙い空想を描いている時、すぐ側から馬の足音が聞こて来た。音の方向を見ると、松明の灯りが見えた。
その灯りに照らされた甲冑で身を固めた騎士達が近付いて来る。
数は三十騎程だ。先頭の騎士が馬から降り俺達の元へ歩いてくる。
「食事中に申し訳ない。訪ねたい事があるのだが」
騎士は両手で兜を取り、俺達を見回す。その騎士は少女だった。少年のように切り揃えた短い金髪の髪。瞳が溢れそうな大きな目。
だがその瞳は、強い意志を持つ者の色をしていた。若い。俺と同い年位だろうか?まだあどけなさを残すその騎士は、とても可愛らしい顔をしていた。
「この辺りにハーガット軍の兵達がいると聞いたのだが、貴方達は怪しい者を見なかったか?」
少女は落ち着いた声色で俺達に質問する。
俺が黙っていると、後ろからレファンヌの声が聞こえた。
「キント。あんた見惚れてないで、さっさと答えてあげたら?」
べ、別に見惚れてなんか無い!!ここ数日の間、魔物と何度か遭遇したが、ハーガットの軍兵は見なかった。
俺はそれを少女に伝えると、少女は何か考え込むように俯いた。
「あの。ハーガット軍は危険だ。近付かない方がいいよ」
俺は自身の経験から、少女に対して心から忠告をした。すると、後ろの騎士達が笑い声を上げる。
「坊主。その御方はこのアーラル地方領主アミルダ様だぞ。アミルダ様の剣技に適う者など滅多にいない。例えハーガット軍だとしてもな」
騎士達の声に俺は驚いた。こ、こんな若い娘が地方領主?剣の達人?
「冒険者殿。忠告は感謝する。だが私は領主として領民の治安を守る義務がある。例えハーガット軍が相手でもだ」
凛とした佇まいと所作。アミルダは兜を再び被り馬に騎乗する。
「冒険者殿。邪魔をしたな。旅の安全を祈る」
「ま、待って!!」
立ち去ろうとしたアミルダに、俺は慌てて駆け寄る。俺は死霊について知っている事を全て彼女に話した。
「では。死霊は日中は活動が出来ない。そう言う事か?」
「ああ。夜の間は動かない方がいい。動くにしても太陽が昇ってからだ」
アミルダは俺の話を素直に聞き入れてくれた。彼女の決断は早く、俺達の近くに夜営をする事にした。
「貴重な情報を感謝する。私の名はアミルダ
。冒険者殿。貴方のお名前は?」
アミルダは微笑しながら俺の目を真っ直ぐに見つめた。俺の胸の中の心臓は、何故か忙しく動き始めた。
「······キ、キント」
「ありがとうキント」
アミルダの感謝の言葉と笑顔に、俺の頭の中は真っ白になっていた。
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