悪夢

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悪夢

 アミルダは情報のお礼と言って新鮮な肉と酒を分けてくれた。俺達のささやかな夕食はたちまち酒盛りの場となった。 「ではキント。貴方の身体は半分死霊なのか ?」  アミルダが俺に質問する。何故かその酒盛りにアミルダが居続けた為、俺は身の上話を彼女にした。  レファンヌに言わせると、その時の俺はとにかく話すのに必死だったらしい。アミルダの隣に座り彼女に至近で話をする。  俺の胸の動悸が激しいのは、酒を飲んだせいだろうか。 「貴方達冒険者が羨ましい。風のように自由に生きる。とても素敵な人生だ」  アミルダが羨望の眼差しで俺達を見回す。 ひょっとして、アミルダは冒険者になりたかったのだろうか? 「領主の人生は退屈なの?」  アークレイに次々と注がれる酒を全て空けて行くレファンヌは、酔った様子も無くアミルダに問いかける。 「退屈では無い。責任は伴うがとてもやり甲斐がある仕事だ。でも私は時々思ってしまうのだ。背負う物が無くなった時。どんな人生が自分にあるのかと」  アミルダは静かにそう答えた。マコムが薪を増やし、炎は息を吹き返したように夜の森の中に紅い火を灯す。 「キント。早く人間に戻れると良いな」  アミルダは部下達の所へ戻る際、笑顔で俺にそう言ってくれた。彼女を見送りながら、何故か俺は胸に痛みを覚えていた。    翌朝、俺はアークレイの足に頭を蹴られ起床した。飲んだくれ勇者は寝相悪く大いびきをかきながら熟睡中だ。  俺はアミルダが気になり、彼女達が夜営していた場所に向かった。だが、アミルダ達は既に出発していたらしく、そこには薪の跡が残されていただけだった。  アミルダに会えなかった事に、俺は深い失望感を感じていた。同時にアミルダの身の安全を心配したが、現在のハーガット軍はロッドメン一族との決戦を前に全兵力を集めている筈だった。  こんな地方にハーガット軍が居るとは思えなかった。結局俺達はアークレイの寝坊の影響で出発が遅れてしまった。 「このまま森を抜けて行きましょう。多少ですが近道になります」  マコムが地図を見ながら俺達を先導してくれる。俺は何だか気が抜けたように歩いていた。 「キントさん。アミルダさんに会えなくなって寂しいんですか?」  マコムが俺の顔を覗きながらとんでも無い事を聞いて来た。間髪入れずレファンヌも追い打ちをかける。 「キント。あんた顔を書いてあるわよ。あの領主の娘に会いたいってね」  マコムとレファンヌの冷やかしに俺は閉口し、早歩きで一行の先頭を行く。そして半日が過ぎた頃、俺は視界の先に異変を目撃する。  馬の死骸が大量に散らかっている。剣や槍 。盾も同じく散乱していた。俺は不審にその光景を眺めていると、小さい小屋がある事に気付いた。 「······この馬の死骸は。まさか昨夜の騎士達の馬か?」  馬の死臭に口元を押さえながら、メルサルは不吉な事を言った。俺は言い知れぬ不安に襲われ、気づいたら小屋に向かって走り出した。 「誰か!誰か中に居るのか!?」  俺は小屋の扉を叩きながら叫んだ。誰でもいい。何でも良かった。とにかくこの異様な空間がアミルダ達と無関係だと分かる証拠が欲しかった。 「なんだ騒々しい」  小屋から出て来たのは細見の男だった。銀色の髪に眼鏡。白い白衣を着込み、年齢は四十代半ばと思われた。 「私は今、仕事で忙しいのだ。何用か知らんが立ち去れ小僧」  白衣の男は不機嫌そうに俺を睨んだ。その時、レファンヌの鋭い叫び声が響いた。 「キント!そいつから離れなさい!!」  俺は反射的に後退した。あのレファンヌが叫ぶ事態に、穏やかな状況などあり得なかった。 「······キント。あの白衣の男の腕に巻かれたブレスレットを見なさい」  レファンヌに言われた通り、俺は白衣の男の腕を見た。あ、あれは!シャウトが身につけていたブレスレットと同じだ!  あのブレスレットは死体を死霊に変える道具。ハーガットが部下に与えた一回使い切りの物だ。そのブレスレットを、この白衣の男は手首に幾つも着けていた。 「······お前は、ハーガット軍の者か!」  俺は叫びながらラークシャサを腰から抜いた。白衣の男は忌々しげに舌打ちをする。 「今日は私の研究を邪魔する連中が重なるな 。早々にここから立ち去れ。さもなくば命を落とすぞ」  白衣の男が指を鳴らすと、地中から甲冑を纏った騎士達が這い出て来た。その数三十。 こ、この騎士達は、昨日アミルダが率いていた部下達だ!! 「······土色の顔。身体の一部が損傷しても動き続ける。この騎士達は間違い無く死霊にされているわね」  レファンヌの冷静な言葉に、俺は呼吸が止まるくらい息苦しくなってきた。騎士達が殺され死霊に変えられた。  俺は必死の形相で騎士達を一人ずつ見て行く。この中にはアミルダの姿は無かった。よ 、良かった!  アミルダは何とか逃げる事が出来たんだ! 「キ、キントさん!!」  マコムの叫び声に、俺は現実に引き戻された。騎士達の中央の地中から、新たな騎士が土を掻き分けその姿を現す。  その騎士は、金髪の髪の少女だった。  
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