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狂気王の居城
俺達は山を下り夜営をした。そして翌日の昼頃には、王都を囲う高い壁が目の前に見えて来た。
太陽はその存在を誇示するかのように陽射しを地上に浴びせる。半分が死霊の俺はその陽射しをフードで避ける。
······いよいよハーガットの居城に来たぞ。俺は逸る心を必死に落ち着かせた。この時の俺の最優先事項は、アミルダの救出だった。
「何よノホット。まだ決戦とやらは始まっていないじゃない。何で私達の方が早く到着するのよ」
レファンヌが八つ当たりに近い内容の抗議をノホットにした。そのノホットは何時もの愛嬌のある表情が消え、何かを探るように周囲を観察していた。
「······レファンヌ。どうやら俺達は丁度開戦の場面に出くわしたみたいだぞ。空を見ろ」
ノホットの言葉に、全員が空を見上げた。
「······何でしょうかあれ?空から何か落ちて来ます」
マコムが両目を細めてそれを視認しようとする。だが、程なくしてそれは光の塊と直ぐに分かった。
光の玉は一つでは無かった。数えきれない光の塊が雨の様に王都の長大な壁に落ちて来た。
光の塊が壁に触れた瞬間、閃光と共に爆発を起こした。爆発の連鎖は途切れる事なく続き、俺達は聴覚を守る為に両耳を塞いだ。
「爆裂の呪文ね。風の呪文で直接城に取り付けば良い物を。ご丁寧に正面から攻めるなんてね」
爆風で長髪を揺らしながら、レファンヌは不快そうに言い捨てた。
「心理的な圧力の為だな。あの光景を見れば、ハーガット軍の兵士達は肝を冷やす事だろう」
ノホットは土埃からマコムを守るように壁になり返答する。俺は自分の目を疑った。王都の街を囲う堅固な壁が、数十メートルに渡って完全に破壊されていた。
崩れ落ちた壁の瓦礫の先には、市街地がその姿を無防備に覗かせていた。
「空からまた何か落ちて来ます!」
マコムが腕を伸ばし空を指差す。太陽の逆光に遮られたその黒点は、次第に数を増やし落下して来た。
「······これは?」
俺は目を細めながら呟く。俺達の目の前に、白い法衣を纏った集団が降り立った。先頭に立つ九人はノホットと同じ真紅のマントを身に着けていた。
ひょっとして、この九人が十法将!?九人の背後には屈強そうな戦士が幾人も立っていた。
以前カミングが言っていた。ロッドメン一族は接近戦に弱い為に、名のある冒険者を雇い護衛者としていると。
あの戦士達はその冒険者だろうか?更にその冒険者の後ろに、マントを身に着けていない白い法衣者達が控えている。
その総数は数百人はいると思われた。これが、ロッドメン一族の総力を結集した集団なのか?
先頭に立っていた紅いマントを身に着けた二人がこちらに歩いて来た。
「ほう?これは聖女候補では無いか。ハーガットの王都に馳せ参じたと言う事は、これまでの暴挙を悔い改め、一族の為に汗を流す気になったのかな?」
レファンヌを見て口を開いたのは、二十代前半に見える男だった。背丈は俺と同じ位か
。男から見ても整った顔の造りだ。
だが声に倹が感じられた。黒い前髪の下の両目からは、自信と野心の色がはっきりと伺えた。
「久し振りねグレソル。生憎一族の為に働く気は毛頭無いわ。私は自分の為にハーガットの首を取りに来たのよ」
レファンヌがグレソルと呼んだ男に返答すると、グレソルの隣に立つ小柄な人物が一歩前に出た。
「本音を言いなさいレファンヌ。貴方、なんだかんだと言い訳をして、本当は手柄を立てて聖女に任命されたいのでしょう?」
それはレファンヌと同じ金髪の女だった。
レファンヌと同い年位か?異なるのは髪が肩までの長さであり、身長も彼女より小さい
。
とても美しい顔をした女だったが、表情は険しく、レファンヌに対して敵意を剥き出しにしていた。
「あらあら。聖女候補から惜しくも落選したメルダじゃない。あんたこそ手柄を立てられるよう奮戦するといいわ。もしかすると、長老のジジイ共が気が変わってあんたを聖女に選ぶかもよ?」
メルダと呼んだ女の敵愾心に、それ以上の毒舌を加えてレファンヌは言い返した。
「······貴方はいつもそうよレファンヌ!私は絶対に認めない!貴方よりも、私の方が聖女に相応しいわ!!」
メルダは興奮した様子で叫んだ。グレソルとメルダ。この二人が十法将の中でも一二を争う逸材なのか。
ノホットが堪らず二人の仲裁に入ると、アークレイが崩れた壁の方を見ながら口を開いた。
「仲間割れしている場合では無いぞ。ほれ見ろ。ハーガット軍のお出ましだ」
アークレイは行儀悪く顎を動かしてその方向を指し示す。そこには、崩れた壁を埋めるかの様に、黒い鎧を身に着けた兵士達が姿を現した。
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