死霊の来襲

1/1
前へ
/69ページ
次へ

死霊の来襲

「し、死霊だ!死霊が攻めて来たぞ!!」 「そ、そんな!ここに来たって事は、隣町はもうやられたのか!?」 「馬鹿!そんな事どうだっていいだろ!早く逃げるんだ!」  夕暮れ時。夕食を摂り一日の疲れを癒すこの時に、小さな街は騒然としていた。街の北門は破られ、死霊達が街の中に侵入して来たのだ。  恐らく北門の門番は生きていないだろう。 運悪く北門の近くに停車していた荷馬車が俺の目に映った。  荷馬車に乗っている老夫婦が死霊達を見て凍りついている。気付いた時、俺は荷馬車に向かって走っていた。  って!俺は今丸腰だぞ?死霊達は百体はいる。そんな連中に素手でどうするつもりだ俺は!? 「早く馬を動かして!急いで!!」  俺は老夫婦に怒鳴った。固まっていた老夫婦は我を取り戻し、慌てて馬に鞭を打つ。馬は面倒そうに動きだした。  その際に、荷馬車から積み荷と思われる木箱が落ちた。荷馬車が去った後、俺は死霊達に囲まれた。 「自分の身を犠牲にして他者を救う。なぁんて美しい光景なのだああぁぁっ!!」  鼓膜をつく大きすぎる声に、俺は思わず耳を塞いだ。な、なんだこの馬鹿みたいな大声は!?  俺は死霊達の先頭に立つ男を見た。巨漢の身体にいびつな形をした黒い鎧を着たその男は、俺を見て何やら頷いている。 「少年よ。君は素晴らしい精神の持ち主だ。殺して死霊にするには惜しい。私の部下にならんか?」  鎧の男は大きい顔についている大きい口を開き、俺に話しかけて来た。 「······アンタがこの死霊達の隊長か?」  俺は数歩後退しながら鎧の男に問いかけた 。同時に何か武器になりそうな物が無いか周囲を見回す。 「その通り!私の名はシャウト!偉大なるハーガット軍中尉だ。因みに先月迄は大尉だったがな!!」  シャウトと名乗った男がまた叫ぶ。くっ!なんて大声なんだコイツ!至近で聞くと鼓膜が破れそうだ。  ん?コイツ先月迄は大尉で、今は中尉?階級が一つ下がったのか? 「······シャウト中尉。アンタ何かヘマをして降格させられたのか?」  この男の階級なんて興味が無かったが、俺は時間稼ぎの為に質問する。俺の十歩先に、 荷馬車から落下したと思われる木箱が目に入った。 「失礼だぞ少年!私はヘマなど犯していない !それ処が、私はハーガット様の開かれた舞台に招待されたのだ!!これは、将来の栄達が約束された正真正銘のエリートのみ招待される催しなのだぁ!!」  こ、声の振動で身体が揺れそうだ!このシャウトって男を叫ばしていると、こっちの耳が持たないぞ。 「なる程ね。その阿呆みたいな大声のせいで降格したって事か」  俺の麻痺しそうな聴覚に、響きが良い綺麗な声がした。俺が振り返ると、そこにはレファンヌが立っていた。 「女あぁぁっ!それはどう言う意味だ!?何の理由があって私が声のせいで降格になったと断言出来る!?」  シャウトは殺人的な大声を再び放つ。金髪の悪魔はそれを冷然と聞き流す。 「その招待された舞台とやらで、アンタはさぞ盛大に喚いたでしょうね」 「無論だ!いや待てよ?喚いてはいないぞ!失礼な!私はハーガット様の素晴らしい舞台に感銘を受け、声の限り称賛を送っただけだ!!」 「で?その後にハーガットから何か言われなかった」 「言われたぞ!聞いて驚くなよ!偉大なるハーガット様に「よく通る声だな」とお褒めの言葉を頂いたのだあ!これはもう、将来安泰間違い無しだろ!?」 「アンタの将来は知ったこっちゃないわね。で?他に何か言われなかったの?」 「ええ!?えーっと。何か言われたかな?ん ?そうだ!思い出したぞ!ハーガット様から 「今度その顔を見せたら喉を潰す」と言われたのだあ!そして私は中尉に降格し、地方の死霊部隊に配置されたのだ!!」  こ、こいつは自分で分かっているのか?何で降格したのかを?俺はシャウトに呆れながらも、木箱の側に移動した。 「はっ。左遷されて地方死霊部隊の隊長?それでどうやって栄達するの?アンタ、大声のせいで脳みそが萎縮でもしているの?」  レファンヌは大声男を嘲笑した。シャウトは数十秒考え込み、自分が悪口を言われた事に気付いた。 「女あああっ!ハーガット軍、未来の将官候補になんて失礼極まりない台詞を!地方からコツコツ。いや違う?そうだ!小さい事からコツコツと積み上げ出世する!それが私の立身出世物語となるのだああ!!」  シャウトは更に音量を上げ叫んだ。腰からやたらでかい剣を抜き、レファンヌ目掛けて巨漢を揺らして走り出した。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加