雨ふりの世界

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 夏菜(かな)は机に肘をつきながら、窓をつたう水滴たちを眺めていた。コツンという音を立ててガラスを叩いた水滴は、次々と他の水滴と合体し、ふらふらしながら落ちていく。  どの水滴が早く落ちるか、どれが一番大きいか。担任のどうでもいい長話を聞き流しながら、夏菜はぼうっとそんなことを考えていた。  ふと目の焦点を窓の外に合わせてみた。いつもは緑色をしている遠くの山は、灰色の空気に霞んでいる。少し視線を下げてやると、グラウンドの真ん中に大きな水たまりが出来ている。住宅街も、畑も、運動場も、全てを灰色のフィルターをかざして見ているかのように、町は暗く沈んでいた。  夏菜はただ、その景色を眺め続ける。もちろん、頭の中は空っぽである。なるべく余計なことを考えないようにしていた。  すると突然、雨音が別の大きな音にかき消された。そしてそれと同時に、学校のチャイムが鳴っているということに気が付いた。日直が号令をかけ、クラスメートは皆面倒臭そうに立ち上がる。  夏菜は慌てて机の中の教科書類を鞄に詰め込み始めた。しかし、ようやく帰る準備が出来た頃には、皆とっくに教室の扉に群がり始めていた。
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