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「自分を気遣う他人に気遣い、無理していることにも自分で気付かずにお前は笑い続けていた。そのうち少しずつ危うく感じはじめて、つい、お前に会いに下界に降りてしまった。お前の涙は、美しかったよ。あの時、心の澱が溶けて良かった。多分、あの時にはもう、私はお前に捕らえられていたのだろうな」
そう言って、私を真っ直ぐ見つめる暗月になんと言って返したら良いか分からず、目を伏せる。けれど頬に手を添えられて、また目を合わせられてしまった。
「私は人では無いが、愛する気持ちは人と変わりはない。こうしてお前が私の世界に来てくれたことを心より嬉しいと思うし、二度と離したく無いと思っている。だが、お前の真の幸せとは何かとも、考え続けている」
淡々と話し、私を見つめ続ける暗月の瞳が、不安で揺れている。
「ここは、お前の存在する世界とは別の理にある世界だ。ここの世界の住人になれば、もう、前の理で存在することは出来ない。
……お前が二年前に失った家族と、お前が死んだ後に再会することは、もう出来ない」
苦しそうにそう告げる暗月を見て、ああやっぱりそうか。と思った。
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