5. 月の世界で、杯を傾けよう

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 二年前に、突然、事故で家族を亡くした。  父、母、弟、妹。郷里を離れ、一人暮らしてしていた私だけが生き残った。今まで当たり前のようにあると思っていたものが、私を構成する重要なものが、無くなってしまった。あの、暗闇に突然放り出された様な恐怖感、絶望感はまだ私の中に生きていて、時々私を押し潰す。  そんな私が心の中で願っていたのは、唯一の救いだったのは、いつか私が死んだ時、家族に再会できる。だった。特定の宗教とかでは無い、それが私が生まれ育つうちに根付いた死生観だ。  暗月はそれを知っていて、だから死んだ後に、家族と再会してからの私に、自分を思い出して欲しいと願ってくれたのだろう。  でもね、 「私がこっちの世界にいま来たとしたら、現実世界での私はどうなってしまうの? 最初から存在しない人? いきなり行方不明になっちゃう人?」 「……なにもしなければ、行方不明だ。そうならない様に、存在を消したり、周りの記憶を消したり、幾らでもやりようはあるが」 「それらの弊害は? 綺麗さっぱりと存在とか記憶って消えるものなの? いくら月の精だって、結構無理することになるんじゃ無いの?」
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