5. 月の世界で、杯を傾けよう

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 やっぱり優しいだけじゃ無い、なにか熱を孕んだその笑みに、私は思わず見惚れてしまう。暗月はそんな私の視線を受け止めたまま、卓上に手を伸ばす。そして、そこに置かれた料理のうち、ガラスの小鉢を取り上げた。中には八分割にカットされた、白くてみずみずしい果物が入っている。 「桃?」  通常の桃と違い小振りで、ちょっと真ん中がひしゃげた、ドーナツが膨らんだような形をしている。食べやすく皮も剥かれていたため一見分からなかったけど、この甘く芳しい香りは紛れもなく、桃だ。 「こちらの世界の食べ物だよ。この桃は、命の源とも言われている」 「どうりで」  食後のデザート要らない派なので全然気にしていなかったけど、確かに桃は脚付きの台に乗せられ、この卓上の中央に位置し、特別な雰囲気を醸していた。 「そしてこれをお互いに食べさせ合うと、私たちは結ばれる」  暗月の笑顔が艶やかで、どきりとする。 「これを食べて、お前はこちらの世界の住民になるんだ。実際に来るのは三ヶ月後で構わない。だが、今これを食べさせても、いいか?」  言い方はお伺いを立ててるようなのに、先ほどとは違って弱気さは感じられない。実質、宣言だ。
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