5. 月の世界で、杯を傾けよう

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「はい」  うなずくと、なぜか暗月の膝の上に座らされた。  こうなってはじめて、自分の格好を思い出す。暗月に合わせて中華風の着物だけど、着付けは意外と楽だった。和服で言うところの襦袢が上と下とに分かれていて、下はふんわりとした巻きスカートのようになっている。それにさらに上下一体の裾広がりな着物を重ね、帯で固定してあるだけなので、この格好のまま足を開くことが出来る。私は暗月に跨がる格好となり、お互いに向き合った。  暗月は私を見つめたまま小鉢の桃を一切れ摘むと、私の口元に持ってくる。なんだかすごく楽しそうだ。 「朔、愛している」  不意打ちでそう言われ、そっと桃を唇に当てられた。驚いて見つめ返すと、真剣な目に捉われた。 「……私も、愛している」  神聖な誓いのつもりで繰り返し、そのまま一口で桃を食べた。  甘い香り。  口の中に果汁があふれ、その甘さとみずみずしさが広がる。十分堪能し飲み込むと、自然と満足の笑みが浮かんだ。  暗月はそんな私の様子をじっと見ている。 「美味しいね」 「では次は、朔が私に食べさせてくれ」  囁く様にそう言われ、私も桃を一切れ摘んで暗月の口元に近付けた。
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