いらないひとゲェム

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 何を、言っているのだろうこいつは。  私は唖然として、両隣の人達と顔を見合わせた。確かに、この小さな島国が過剰な人口増加による、慢性的な食糧不足に悩んでいることは事実である。そうやって住んでいる人間の中には、食料を食いつぶすだけの役に立たない人間や、人を傷つけるばかりの暴力的な人間などもいるのはきっと間違いないことなのだろう。  だが。だからといって、そんな人間を――問答無用で処刑、なんて。頭のネジが外れているとしか思えない。 「納得できませんね」  バリバリのキャリアウーマン、といった様子のスーツ姿の女性が、口を開いた。座っている椅子は赤い色をしている。 「増えすぎた人口に対する政策は、確かに急務でしょう。だからといって、要らない人間を貴方がたの独断で決めて処刑するなんて、人道に悖るにも程があります。そのようなことを決める権利は、誰にもありません」 『道理でスネ。流石、カスミさんはとても聡明でらっしゃル』  どうやらキャリアウーマンは“カスミ”という名前らしい。名前を呼ばれたことで、彼女は警戒心を跳ね上げたようだ。なんで名前まで、と憮然とした様子で呟いている。――この様子だと、自分達は全員、身元を知られた上で誘拐されてきたのかもしれない。  もしやこの計画は、かなり壮大なものなのだろうか。この国の為というのが本当ならば、実は国家ぐるみのプロジェクトということもあるのかもしれない。私の背中を、冷たい汗が伝う。 『道理ではない……からこそ、私達の独断ではなく、皆さんにその“いらない人”を決めていただきたいと思うのデス。それこそが民主主義、平等というものデス』 「ふ、ふざけないで!何が平等よ、どうして私達だけがこんなっ!」 『オヤ?誰が皆さんだけ、などと申しましたカ?』 「!」  まさか。  誘拐されたのは、私だけではない?私以外にも、身近な人達が大勢――同じように攫われている可能性もあるのだろうか。 ――嘘でしょ?お父さん、お母さん、ケンタ……!  父と母、弟の顔を思い浮かべる。何としてでもココから逃げなければいけない。逃げて――家族の無事を確かめなければ。  だが、いらないひとゲェムということは、私が生き残るということはつまり――。 『今から、目の前の机にタイムスケジュールと、皆様の簡単なパーソナルデータを表示致しマス。それが表示されましたら、十五分間、皆様には“自由時間”を与えマス。その自由時間の間に、自らがいかに他の皆様にとって有用な人間であるかをアピールする言葉を考えてくだサイ。十五分後、順番に皆様に二分ずつアピールタイムを差し上げマス。全員のアピールが終わりましたら、十分間の投票タイム。皆様は、“一番必要だと思う人間”に投票してくだサイ。間違えないでくださいネ、投票するのは“一番必要な人間”デス。一人、3ポイントを持ちマス。3ポイントを、自分以外の人間に振り分けるのデス』  一番必要な人間に。  ということは、つまり。 『一番ポイントが少なかった人が、“いらないひと”ということで処刑されマス。最下位が二人いたら、もう一度決選投票を行いマス。一人でも多くのポイントを得られるよう、皆様に上手にアピールしてくださいネ』  なんて忌々しく、良くできたゲームだろう。十五分では、ろくなアピールなど考えられない。勿論、逃げるための相談をする余裕さえもないだろう。そもそもが、たった今出会ったばかりの見知らぬ人間。拘束されているせいで、交わすことができるのが言葉だけともなれば尚更結託することは難しい。  そして、投票。要らない人間ではなく“要る”人間に投票する方が、罪悪感が少ないに決まっている。民主的だのなんだの言いながら、結局自分達にたった一人の”要らない人間”の椅子を押し付けようとしているにすぎないのだ。 ――なんで、なんでなんでなんで!なんで私が、こんなことに……!  パニック寸前。泣き出したくてたまらない。  それでも、泣き喚いている時間さえも用意されていない。  私はあふれる涙を拭うことさえできないまま、無情に表示されたカウントダウンタイマーとスケジュール、プロフィールを見つめたのだった。
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