いらないひとゲェム

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 *** ●カスミ:赤い椅子。OL。二十八歳。 ●アヤコ:黄色い椅子。主婦。五十九歳。 ●カツエ:緑色の椅子。手芸教室講師。七十八歳。 ●サキ:青い椅子。高校生。十六歳。 ●ミク:白い椅子。小学生。十歳。 ――パーソナルデータって、年齢と椅子の色だけじゃない。こんなのじゃ、他の人のことだってほとんどわかんない……アピールもそうだけど、投票の材料にすることなんて……!  表示されたデータは、あまりにも少なすぎるものだった。全員が女性。それ以外は年齢も何もかもがバラバラだ。この中の一人が、いらない人として処刑されなければいけないというのか。――あんまりにも、身勝手がすぎる。  同時に。女子高生の私――サキは、何が何でも死にたくないと思っているのも事実なのだ。生きたいと願うのはつまり、他の誰かに代わりに死んでもらうことも同義だというのに。 ――こんなの、まだ若くてキャリアも何もない人が不利じゃない!私もそうだけど……小学生の女の子までいるのに……!  私の隣に座っている、髪を二つ結びにした女の子、ミクは。まだランドセルを背負っている年齢だというのに、随分落ち着いているように見えた。むしろ、大人達が滑稽に見えるほどの冷静沈着ぶり。さきほどから何も口にせず、じっとテーブルを睨みつけて何かを考えている。まさか、彼女には生き残るための秘策でもあるのだろうか。 ――どうしよう。私には何もない。アピールできることなんか、何も……! 『時間デス。アピールを開始してくだサイ。年齢順に、まずはカツエさんからドウゾ』  無情にも、誘拐犯は時間を告げる。  私達の視線が集中する中、まずカツエさんが話を始めた。 「わ、私は……私の夫は数年前になくなりましたが、息子と孫がおります。孫には来年、ひ孫が生まれることになっているのです。私はどうしても、ひ孫の顔が見たい……。こんな年寄りなんぞ生かしても仕方ないとお思いかもしれますが、後生ですから私に、私に時間をください。あと一年は生きる権利をください。どうか、お願いします……!」  予想はできていたことだ。アピールといっても、そうそう自分の長所をとっさに言える人間は多くない。こんな命が掛かった状況のならば尚更。半ば命乞いのようなものになるのも、仕方ないことだろう。  上品な着物の老婦人が、泣きながら頭を下げているのを見るのは心に来るものがある。できれば、孫の顔を見させてやりたい――少なからず、そんな気持ちを誘われる。  だが。 「あたしは……」  次に指名された中年の主婦、アヤコは全く別の方向で攻めてきたのである。 「あたしに投票してくれた人には、このゲームの後にお金をあげるわ。一人につき十万円でどうかしら。老後のためにじっくり貯めてきたお金だけど、それで命が変えるなら意味あることよ。十万円あれば何が買えるか想像してみて?高い服もゲームも買えるわ。家は買えないかもしれないけれど、そのための資金に加えることはできるはずよ、違う?」 ――そう来たか……!  私は焦る。そして、ようやく理解した。これはそういうゲームなのだ。こいつを生かし、投票すれば自分に利益が出る。メリットがある――そう思わせることができた者が勝ちなのである。  お金なんてと思うかもしれない。でも実際、十万円もあれば買えるものがたくさんあるのは事実。人によっては、喉から手が出るほど欲しい金額に違いない。  残念ながら私には、そういうアピールできるものが何も、ない。 「くだらないですね」  そんなカツエの言葉を一蹴したのが、バリバリのキャリアウーマン風の女性、カスミだ。 「お金は努力次第でいくらでも貯められる。でも、時間と経験、知識、人脈はそうはいかない。チャンスを逃せばいくらでも零れ落ちていくものです。……そうは思いませんか、特に若いお二人……サキさんにミクさん」 「え」 「!」  そうだ。票は、全員が平等に三票ずつもっている。全員から票を貰わなくても、勝つ方法はあるのだ。そもそも最下位にさえならなければ、ここで処刑される心配はないのだから。  カスミの整った顔は、真っ直ぐ私と小学生のミクを見ている。最初から、自分達からのみ票を得ることを狙いにきたとわかった。それも、立派な戦略であることに違いはない。
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