いらないひとゲェム

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 ***  犠牲者が決定されると同時に。その人物は、椅子にがっちりと固定された。元々固定されていたが、それに加えて――腹回りをしっかりと絞めるベルトが出現したのである。  何か言いたげな彼女に、遺言さえも許さないというように――ベルトはぎゅるぎゅると締まっていった。本人の肋を砕き、内臓を潰し、その肉を弾けさせ、断末魔とともに大量の血を撒き散らせて。  私はそれを、無感動に見つめた。――彼女、アヤコの黄色い椅子が、赤い斑のグラデーションに変わる様を。 『生き残った皆様、おめでとうございマス。それでは、次のお部屋へどうぞ』  生き残った四人は拘束を解かれ、次の部屋へ向かうよう強制される。今にも倒れそうなOLのカツエ、青ざめるカスミ、動揺を隠しきれない女子高校生のサキと共に、私はスカートを翻して椅子から飛び降りた。 ――予想外だったな。  心の中で、呟く。生き残りが大きく近づく権利――そんなハッタリをかまして、皆の心をがっちりと掴んだ私が最多得票数になるのはわかる。でもまさか、得票二位が、何もアピールできなかった女子高校生のサキになろうとは。  彼女も心底不思議がっている様子だった。きっと、自分が処刑されることになるとばかり思っていたのだろう。 ――まあ、なんとなく理由はわかるけどね。なんだかんだ、私も彼女に一票入れたし。  おろおろする彼女の背を後ろから見つめながら、私は思う。  あの時、サキは自分のアピールを何もできなかった。だが、何も“提示”できなかったわけではないのだ。彼女は気づかなかったのだろう。自分が実質的に――人としての“善意”を天秤にかけていたということを。  こんなゲームは、間違っている。いらない人間を決めるなど、言語道断だ。人は誰でも生き残る権利がある――そんな当たり前の、それでいて綺麗事をこの土壇場で口にできる度胸、素直な心。それが何より、参加者達の心を揺さぶるのも当然と言えば当然なのだ。  彼女に投票した者達の心は一つだったことだろう――どんな環境であっても、人としての心は捨てたくない。それが、彼女を選んだ最大の理由であったに違いない。 ――彼女は、どこまで生き残ることができるかな。その、純粋無垢な善意だけを武器にして。  願わくば、彼女が最後まで生き残る一人であってほしいと思う。  私のように、下手に頭が回るだけのガキより。彼女の方が“必要な”世界など、きっといくらでもあるのだろうから。
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